purify〜神のいない月

□第拾肆夜
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「がーごー。」
「すーぴー。」
「にゃ〜。」
「ぐー。」



・・・醜い。
余りの騒音と醜態に思わず眉間に皺が寄る。
・・・何故こやつらを泊めねばならなかったのか。
畳の上に転がる童どもを見ながら溜息が出る。



「・・・すー。」



こんな喧しい中でも、穏やかに眠る禊。
彼らを泊める事に首を縦に振った少女。
そう、少女だ。
幼い顔もそうながら、自分の生のほんの僅かしか生きていない子供。
そんな子供に我は逆らわない。
確かに遥か古の時に交わした契約は在る。
然しその呪縛を解き放てるほど時が経ち、我は力を手に入れ、呪縛は弱まった。

初代折栄に敗れて以来、代々折栄家に仕えさせられて来た。
呪縛が在ったからそうせざるを得なかった。
だが、今は違う。



「我も丸くなったものよの・・・。」



呪縛は未だ在る。
然し禊の傍にいるのは我の意志。



「ねぇ南風って本名なの?」
「・・・・・・目覚めたか、狐よ。」



此方を見るのは童の一人、名を何と云ったか。
覚える気もない。
ただ、目許が狐のように細い故、狐と呼ぶようにした。
他の童も同じ事。
皆、動物の名を当てはめている。



「質問の答えは?」



言葉の使い方を知らぬ狐よ。
然しこやつは童どもの中で唯一油断ならぬ。



「真実の名など、とうの昔に忘れたわ。」



覚えていたとて、人前に曝す訳もない。



「我は南風。それ以上もそれ以下もない。」



南風。
その名こそ契約の証。
呪縛の鎖。
なんぷうは『はえ』とも読む。
折栄のはえ。
この名が在る限り、我は折栄には逆らえない。



『別に無理して従わなくていいわ。』



二年前、折栄の当主となった禊は開口一番そう云った。



『自分で解くのが面倒なら私が解いてあげるわよ。』



禊は一度とて、我を留めようとした事はない。
寧ろ我の好きにしろと、手を離す。
今までの折栄は我を如何使役するか、そればかりで在ったのに。



「勘違いするな。我は禊に従っているまで。」
「ふーん・・・。」
「多少の知識は在るやもしれぬが・・・、自惚れるなよ。」



それだけ云って我は遁した。
これ以上こやつらと同じ空間に居るつもりはない。



「また夜が来る・・・。」



まだ白み始めたばかりの空を見ながらそう呟いていた。



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