貰い物

□大好きだ、バカヤロー!
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「はぁー…」



誰もいない放課後の教室。少し日が沈んできた空。
窓からは夕日の光が入り込み教室の中はオレンジ色に染められる。
外からは部活生の元気な声。
そして教室の中で涙を流し溜息を吐く私。



中学三年生最後の夏。
受験勉強で忙しくなる季節、夏休みに入る前に片思いの相手に思いきって告白。
そして玉砕。
もう二時間以上も前のことだ。つまり私は二時間以上もこの教室で泣いていることになる。



初恋だった。
友達から幼馴染みだと紹介された彼。
最初はなんとなく気になるくらいで、二年生の時同じクラスになってからは確信した。これは恋なんだと。
姿を見ただけで心臓が跳ね上がり、挨拶を交わすだけで顔は熱を帯びる。
プリントを渡すときに手が当たるものなら嬉しさと恥ずかしさで頭は真っ白になった。
三年生になり、またもや同じクラスになり初めて隣の席になった。
よく授業中居眠りする彼を見て、ドキドキは増すばかりだった。
彼はとても優しかった。
笑顔が可愛らしく、でも部練習試合の時は真剣な顔でとても格好良くて。



好きで好きでたまらなくなり、自分の心のなかにとどめておくことができなかった。
ついに好きだと言ってしまった。
だけど彼はごめん、と一言いって教室から出て行った。
困った顔をしていた。
謝るのは私のほうだ。
そんな顔をさせたかったわけじゃないの。
幼馴染みの彼女が好きだということは知っていた。
だってずっと見ていたもの。
彼女を見るときの彼の目は、恋をしている瞳だった。
私が彼を見ている時と同じ瞳。
嬉しそうで、切なそうで…。



「好き、好きだったの」



一人ぼっちの教室でつぶやく。
もう彼と話すことはないのだろう。
おはようと声をかけることもない。
授業中寝ている彼を起こすこともなくなる。
くだらない話で笑ったり、おやつを分け合うことも…。
そう思うと、また涙が溢れてくる。



「はぁ…」



また溜息一つ。
涙を手で拭う。
いい加減帰らなければ日が暮れてしまう。
そう思っていると、教室の後ろのドアが開く音。
音のほうに顔を向けるとクラスメイトの宍戸がいた。
走ってきたのか、息が上がっている。



「お前まだいたのかよ」

「いいじゃない、私の勝手でしょ。大体あんたこそどうしたのよ」

「………忘れ物」

「ふーん」



何故よりにもよって宍戸なんだ。
宍戸は彼と同じ部活で仲が良い。
宍戸を見るとまた先程の事を思い出してしまう。
できるだけ顔を見せないようにし、鞄に手をかけようとした。
が、しかし、それを宍戸の手によって邪魔される。



「ちょっと!」

「なぁ、何で泣いてんだ」



文句を言おうと口を開くがまたもや宍戸によってそれは叶わなかった。
私の目をまっすぐに見て聞いてくる。
それは疑問ではなく、尋問のようだった。



「別に、泣いてなんかない」

「嘘つけ、目ぇ腫れてんぞ」



それと涙の跡、と付け加える宍戸。
そういって私の顔に手を添え、瞼を親指で優しく撫でる。
何でこんなことするの?
何で優しくするの?
何でそんな愛おしそうな瞳で私を見るの?



「何で…」

「理由なんか決まってる」

「え?」



宍戸から視線をはずせない。
そういえば髪の毛切ったんだ。
綺麗な長髪だったのに勿体無い。
じっと見ていると、宍戸は顔を赤く染め、私から顔を背ける。



「あんまりこっち見んな」

「自分だって見てたくせに」

「なんだ、思ったよか元気そうだな」

「いいから、早く理由言ってよ」

「……一度しか言わねぇからな」

「うん」



下を向いて薄く開く唇。
小さすぎるその声は私の耳に届く前に、外の部活生の元気な声によってかき消される。
ごめん、聞こえなかった。そういうと宍戸はじれったくなったのか今度は大きく口を開いた。



「大好きだ、バカヤロー!」



そう言って宍戸は走って教室から去っていった。
そういえば宍戸の忘れ物とはなんだったんだろう。
明日、先ほどの大告白への返事のついでに聞いてみようと、真っ赤な顔を両手で覆いながら思った。



失恋には新しい恋といいますが、そのとおりのようです。





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