purify〜神のいない月

□第捌夜
2ページ/2ページ




「ワン!」



犬・・・・・・?

真っ暗の部室の中、響いたのは犬の鳴き声。
でも犬なんて今までいなかった筈だけど。



「ワン!」



声の高さ的に小型犬の筈なのに、何故か悪寒が止まらない。



「うわっ!?」
「桃っ!?」



何かが動いた。

僕達じゃない、もっと・・・人ではない大きな何かが。
本能、とでも云うのだろうか。
僕達はそれを直感的に危険なものだと認識した。



「食中り起こすわよ。」



突然の暗闇に桃の叫び声。
頭が回らない僕達と打って変わって冷静な声。



「何だ!?何だよこれ!」
「桃先輩!?」
「キャィン!?」



バチィと音がしたような気がした。
次に聞こえたのは怯んだような鳴き声。
ガラスの割れる音がして、凍ったように感じていた空気が少しだけ和らいだ。



「「「「「・・・・・・。」」」」」



再び点き始めた蛍光灯。
その光が照らすのは床に倒れ込んだ桃と、それを庇うように立つ越前。
それだけ見ていれば誕生日パーティーでふざけあっていただけのようにも見える。



「・・・逃げた、のか?」



でも窓ガラスは割れていて、何よりそこ此処に獣の足跡。
犬と云うよりは熊ほど大きな。



「・・・南風。」
「・・・。」
「うわ!?」



何処からか現れた人影。
その人は浮き世離れと云うか、誰が見ても綺麗だった。



「南風、この子達をお願い。私はあれを追う。」
「折栄さん!」
「おい、待て。」



出て行く折栄さんを追って部室を出た。
うっすらとした月明かりだけを頼りに瞳を凝らす。



「縛。」



まるで映画か何かかと思った。
スクリーン越しに見ているようなその光景をすんなりと受け入れるのは難しい。
それでも疑うことは出来なかった。

僕はただ今目に映っているものを記憶に焼き付けようとただ必死だった。



「急々如律令!」



九つの光を放つ数珠が、それを捕らえ。
そして消えて行く様を。




前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ