お題

□好きの一歩手前
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「「・・・・・・。」」



二人して言葉を失ってしまった。
それは驚きの余り、だ。

現在地は木の上。
勿論それなりの高さを誇っている。
・・・普通の人には到底登れないほどの。

葉も覆い茂っている為、昼寝に最適だろうと思って登って来たDX。
然し其処には先約が居た。



「貴方もしかしてルッカフォート兄?」
「妹に見える?」



すっかりお馴染みになった花ピンを指しながらDXは何時ものように返した。



「・・・歪んでる。」



伸ばされた手に、一瞬避けようとしてしまいそうになるのを意志で止める。
大人しくされるがままになった。



「よし。」
「・・・どうも。」
「まぁ、寝てたらまた歪むかもだけどね。」
「あー、俺寝相悪いからなぁ・・・。」
「そうなの?」



葉と葉の擦れる音に混じって、彼女の笑い声。
それが風と共に流れて来る。



「でも此処で寝相が悪かったら落ちちゃうわよ。」
「それもそうだ。」



一頻り二人で笑った。
それはほんの数秒だった気もするし、もっと長かった気もする。
ただはっきりしているのは、穏やかだと云う事だけ。



「一つ質問。貴方、『誰か』の隣で寝れる人?」
「あー・・・。」



イオンや六甲ならばともかく。
DXも武術を嗜む身。
知らない誰かの存在を感じながら深い眠りにつけるほど、警戒心は弱くない。



「ふふっ、正直に云ってくれていいのよ、無理だって。それとも確定情報を与えるのは躊躇われる?」



大丈夫よ、と彼女は笑う。
私はレイ先輩じゃないから、と。



「今日の所は貴方にこの場所をお譲りするわ。」
「いいの?」
「その変わり此処で会った事は内緒にしてね。」
「勿論。」
「じゃあお休みなさい。」



徐に立ち上がったかと思えば、ざっ、と一瞬にして姿を消した彼女。
其処にはただ木漏れ日が差し込んでいた。



「・・・まさかこの学校に転气が出来る子がいるなんてなぁ。」



イオンと五十四さんは除くけど。
あの動きは武術をきちんと習った者の動きだ。

少し難しい顔をした後、欠伸を一つ。
難しい事を考えるのは性に合わないとDXは幹に背を預けた。
折角譲って貰った事だし、と瞼を閉じた。

然し脳裏に蘇る彼女の笑顔。
耳に響く木の葉のせせらぎのその向こうに笑い声が聞こえるような気がして・・・。



珍しい事も在るなぁ。



まるで第三者のように感心した。
女の子が気になるなんて・・・。

明日も此処で昼寝をしよう。
そう密かに決めたDXだった。





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