ペーパー
□キスの味はバニラ
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坂田銀時は年末に仕事の依頼でとあるスーパーで売り子をしていた。
目の前に並ぶ商品。その中の一つを見付けて、にたりと笑みを浮べる。
そしてそれを手に取ったのだ。
「明けましておめでとう!!」
町中でようやく見付けた黒い服。走り寄って後ろからガバリと抱き締める。
途端に腕に収めた体が跳ね上がったかと思うと投げ飛ばされた。
思わず受身を取るが、アスファルトの上だ。痛いものは痛い。
「ちょ…っ! ひどくね?!」
「後ろから近付くからだ」
投げ飛ばした本人、対テロ組織真選組の副長などと物騒な肩書きを持ち、一応れっきとした銀時の恋人である土方十四郎は、憮然としながら銜え煙草のまま言い放った。
確かに銀時も戦場にいた時は、背後に立つもの全てを問答無用で切り捨ててきたので、彼の言い分も分かる。分かるだけに反論も出来ずに、立ち上がって服についた砂やゴミを叩き落とした。ここで更に文句を言おうものなら、彼の腰にぶら下っている愛刀の錆びになることは必至だ。折角の新年にそんな悲惨な目に合いたくはない。
「で、なんの用だ?」
忙しいのだからとっとと用件を言え、とその瞳は有言に語っている。それにようやく銀時も思い出したようにポケットに入れていた物を差し出した。
「はい、これ。お年玉」
差し出したのは一箱の煙草。土方はそれを目の前にして、ぱちりと大きく瞬いた。
「どうした。オメェが物くれるなんて、なんかあんじゃねェのか」
「ひでぇ! 新年ぐらいと思って折角買ってきたってェのに……」
さめざめと打ちひしがれた振りをすると、呆れながらも土方はそれを受け取った。まじまじと見詰める彼に、早速吸ってみるように勧めてみる。
「俺の吸ってるやつと違うんだが……」
「まぁ、たまには違うのもいいじゃん」
未だ躊躇している土方にさぁさと促すと、彼は訝しげな顔をしながらも箱を開け、一本取り出す。それに愛用のマヨライターで火を点けた瞬間に、目を見開いた。
「なんだ…?!こりゃ……っ」
それと同時に煙草を取り上げ、吃驚したまま開いた口唇を自分のもので塞ぐ。突然のことに硬直したままの土方の口腔内を思う様に貪った。
「ん…っ!んん!!」
息苦しさに、どんどんと土方が背中を叩いてくるまでそれは続けられた。ようやく口唇を離すと苦しさの余り、眦に涙を浮かべた土方が睨み付けてくる。
「何のつもりだ。テメェ」
「やっぱり口の中までは甘くなんないね」
悪びれなくぺろりと舌を出す銀時に、土方はぴつりと切れた。
「そこに直れェェェ!!」
愛刀の鯉口を切った土方に銀時は慌てて走り始める。
土方の手に握られる煙草のパッケージにはキャ○ター・クールバニラ・メンソールと銘打ってあった。
「止めなくていいんですか?」
「ほっときなせィ。犬も食わねぇなんとやらでィ」
後に残されたのは、呆れて肩を竦める沖田とおろおろとする山崎と、
正月早々にバカップル当てられ、砂を吐く江戸の民だった
2009.1.21(収納)
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