ペーパー

□時空を超えて
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『必ず俺も後を追い掛けるから……』

誰かがそんなことを言った。
その人物にしっかりと抱き締められている。そして自分も相手のことを負けじと抱き締め返していた。
ふんわりを鼻腔を擽る甘いにおい。
そのにおいに包まれて、思わずうっとりと瞼を閉じた。

『来るな』

しかし、自分から出たのはそんな相手を拒絶するものだった。それに抱き締めてくる腕がピクリと揺れる。

『お前は来るな。俺のことはもう忘れろ』
『そんなことできるわけないじゃん!!』
 
とても哀しげな声。それを聞いているだけで、身が切られるほど痛かった。だが、それは感じない振りをする。

『もうオメェとは、ここで仕舞ェだ。俺はあいつらと行く』
 
有無を言わせない声。相手は自分の名を呼んでいたようだが、それがなにかは分からなかった。



夢だからか。場面がコロコロ変わる。
次はとても寒い場所だった。
雪が吹き荒んでいる。それはまるで刃のように皮膚に突き刺さった。

『あいつが?!』
『はい。こちらに来ているようです』
 
その言葉に自分は青褪めた。あの時にちゃんと諦めさせたと思っていたのに、何故……。

『行ってください』
『何言ってんだ。ここを放って行けるわきゃぁねェだろ!!』
『なら、旦那を連れてここに帰って来て下さい。旦那がいりゃぁ、百人力です』

そうにっこりと微笑む相手に、自分は何も言えなくなった。
勝つ見込みのない戦い。
彼はそれが分かっているからそんなことを言うのだ。自分をここから遠ざける為に……。
それなのに、自分は頷いた。
最後の最後で自分の欲望に従うなんて最悪だ。
それでも会いたかったのだ。
愛しい人に……。



雪の中に倒れている自分。
鼓動がどんどんと弱くなっていくのが自分でも分かる。

 嗚呼、早くお前を探しにいかなければ……

ゆっくりと瞼を閉じる。途端に眩しい銀色が広がっていった。




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