近藤×土方

□この世の果て
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side H



彼を初めて見たその瞬間。恋に堕ちた。



彼はとても暖かくて、大きくて、まるで太陽そのもののような人だった。
それまで薄汚れた底辺のような昏い世界しか知らなかった自分には、あまりにも眩しい。
彼の撫でてくれる大きな手がとても好きだった。この人のためになら、何でも出来る。
そう思った。
彼と共にいたくて、剣術に励んだ。元々剣術は好きだったから(と言っても喧嘩の手段としてだ)、全く苦にはならない。むしろ、どんどんと己の力が向上していくのが実感できて、とても嬉しかった。
そしてそこでできた、初めての仲間。最初は自分のことを敵視していたようだった兄弟子の沖田総悟もほどなく自分を認めてくれたようで、ようやく自分の居場所を見つけたのだ。





「トシ〜!」

自分を見るなり、情けない声を出す彼――近藤勲に、土方は苦笑する。彼がこんな情けない声で自分に縋り付いてくるのは、大抵女に振られたときだ。
近藤は惚れっぽい。そしてすぐに振られる。そのたびに土方に報告しては泣きついてくるのだ。
土方がどんな想いでそれを聞いているかも知らずに……。
どこそこの誰々に惚れた。そう言われる度に頑張れよと応援する陰で、彼の想いが成就したらどうしようと思い悩む。そして振られたと聞くたびに、ホッと安堵する自分にどれほど嫌悪したことか。

「大丈夫だよ。近藤さんがいい男なのは、俺が一番知ってるから……」
「トシ〜!お前はいいヤツだなァァァ!!」

そう。近藤のことを一番よく知っているのは、自分だ。自分だけが近藤を知っていればいい。
暗い昏い想い。
しかし、それは決して悟らせてはいけない想いだ。
それから程なくして、江戸に向かうことになった。
ようやく終結した攘夷戦争。テロリストとして地下活動を始めたかつての侍たちを取り締まる特別警察が創設され、その局長に近藤が抜擢されたのだ。
当然、土方も彼の右腕として上京した。
それを機に、髪を切った。近藤が大好きだと言ってくれた、長い髪。
もう諦めよう。そう思った。彼のことをこんなに想いながら、武装警察などという危険な職に就けば、どこかに綻びが出ることは火を見るより明らかだ。もしそんなことで万が一、近藤に危険が及んだりしてはならぬことだった。
自分の想いは、髪と共に断ち切ろう。永遠に封印されるべき想いなのだから。
そう思っていたのに、江戸の地で彼は出逢ったのだ。一人の女性に……。
いつもは一回振られれば諦めるくせに、今回は違う。何故彼はあんなに拒絶され、暴力まで振るわれて尚、彼女を諦めないのだろう。
土方は諦めたはずの想いが、どこかで軋み始めた。
彼が彼女の店で酔い潰れ、呼び出されるたびに、目の前で彼を邪険に扱う彼女をどれほど疎ましく、そして羨ましく思ったことか。
そんな彼を慰めながら、何度胸が抉られただろう。
結局は、捨てることなどできなかったのだ。自分のこの激しく、しかしどこか歪な、昏く淀んだ想いは……。



嗚呼。この世の果てがあるのなら、そこで朽ち去りたい。この狂おしいまでの恋慕を抱きながら。
あなただけを想いながら――――




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