近藤×土方

□この世の果て
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side K



彼を初めて見た瞬間、こんなに綺麗な生き物がこの世に存在するのかと、呼吸をするのさえ忘れて魅入ってしまった。





とても綺麗な彼―――土方十四郎は、やはり女にモテた。
いつだって連れ立って歩いていると、女たちはみな彼を見る。そしてうっとりとした目付きで、嘆息を吐くのだ。
しかし土方はそんな女たちに目もくれない。いつだって、自分の後ろを付いてくる。それがどれほど誇らしかったことか。
誰をも魅了する彼の一番は自分なのだ。
最初はそんなちょっとした優越感だけだった。だが、それが違うと気付いたのはいつだっただろう。
その時、目の前の光景を見て近藤は息を呑んだ。
土方は、女から告白されていた。今までに幾度となく見た光景。それなのに何故その時に限って、胸が抉られるように痛かったのは何故だろう?女がこれまで見たどの女性よりも美しく、誰がどう見てもお似合いの二人だったからだろうか?
彼が何の逡巡もなくそれを断ったのを見た瞬間、近藤はホッと胸を撫で下ろした。そして、近藤はふと自分の想いに気付いたのだ。
自分は彼のことが好きということに……。
それからは必死だった。自分の想いを気付かれないように、土方の目を自分に向けさせなければならない。
優しい土方は、女に振られると必ず慰めてくれる。だからいつだって彼の目の前で惚れてもいない女の尻を追い掛けて、振られることを繰り返した。そんなことでしか、自分の方に興味を向けてもらうことができないのは情けなかったが、土方の気を惹くためにはなんだってする。そんなことが続いたある日、突然その話しが降って湧いたのだ。
武装警察の創設。
つい先日、長く続いた攘夷戦争がようやく終結を迎えた。それに伴い攘夷志士たちは地下活動に移行して、今はテロ活動が頻発している。
それを取り締まる特別な機関だがら、いつだって生命の危機と隣り合わせだ。
それでも廃刀令が出たおかげで家の道場が閑古鳥の今、それは大層魅力的な話に聞こえた。
ダメで元々のつもりで名乗りを上げたのだが、採用された時には近藤自身が一番吃驚したことは言うまでもない。
そうして、自分たちは江戸に出ることにした。勿論土方と、同じく門下生の沖田総悟を伴って……。
それを機に、彼は髪を切った。近藤がお気に入りだった、艶やかな長い髪。
短髪の土方も変わらず綺麗であったが、その時、妙な胸騒ぎがした。
彼がどこか、遠くに行ってしまう。そんな危機感。
そんなはずはない。土方は自分の片腕となり、いつだって助力してくれている。
以前より、自分に近しい存在になったはずなのだ。
なのに、何故?
そんな目に見えぬ不安に駆られている時、近藤は一人の女性に出会った。彼の気を惹くためにうってつけの彼女。
それと同時に一人の男を知った。その途端、近藤の中に危険信号が激しく点滅する。
この男は危険だ。一目見て、近藤はそう直感した。こんな時の近藤の勘は、大抵当たる。
銀色の光を放つ男。初めて対峙して、すぐに男のことを調べさせた。
山崎は優秀な監察だ。すぐに調べ上げてきた。
男の名は、坂田銀時。かつて攘夷戦争時においては四天王と恐れられた一人。
マズい。咄嗟に近藤はそう思った。
土方は強い男が好きだ。もし彼らが出会えば、土方はあの男に惹かれるかもしれない。
そんなことは絶対に許せない。土方は自分のものだ。
だから今日も、彼女をストーキングする。彼女に殴られ、こっぴどく振られ、そして土方の気を惹くために……。
自分のこの想いが歪んでいることは、分かっている。それでも……。



例えば土方がこの世の果てまで逃げようとも、必ず追いかけて見つけ出す。
この想いで彼を押し潰してしまおうとも、彼を手放すことなど出来ないのだから……。





2007.3.6・11




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