出会えない奇跡
それは食後の運動ということで、トレーニングを兼ねたバトル中の時だった。
──ゴオオォォッ
「…ん?」
「?」
何か風を切るような音が聞こえ、オリヴィエは空を見上げた。
つられてユウキも上に目を向ける。
そして次の瞬間、
「ぇえッ!?」
「ユウキくん、危ない!」
危険を察知したオリヴィエがユウキの腕を引っ張って飛び退くと同時に、辺りは轟音と砂煙に包まれた。
主人と同じく咄嗟にその場を離れた二人のポケモンたちも何とか無事のようだ。
「いったい何事──」
険しい目で様子を窺うオリヴィエだったが、舞い上がっていた砂煙が晴れて目に映ったものに言葉を切った。
無様とまではいかないが少し情けない格好になっていたユウキも、未だ状況を把握出来ていないがオリヴィエに続いて身を起こす。
次いで、同じように視界に入ったものに目を見開いた。
「……ポケモン?」
「…カイリューだね」
しかも郵便屋さんだ、とユウキの呟きに答えるオリヴィエ。
種族ではあったが自分の名前を呼ばれたそのポケモン──カイリューは、返事にも聞こえなくない鳴き声を一つ上げた。
そしてガサゴソと鞄を漁り、取り出したものをズイッとオリヴィエに向かって差し出す。
「は、手紙!?」
「えっと…これは俺宛て、ってことで良いのかな?」
ユウキはポケモンが手紙を届けて来たことに驚き、オリヴィエは差し出された手紙が自分宛てで間違いないのか確認を取る。
どうやら人間の言葉を理解出来るらしいカイリューは、オリヴィエの問い掛けにしっかり頷いた。
「…ありがとう」
カイリューにお礼を言い、オリヴィエは手紙を受け取る。
こんな風に貰うのは初めてだな、と思いながら後で読もうと手紙を仕舞おうとした時、服の袖を引っ張られる感覚に顔を上げた。
すると、手紙を渡し終えたはずなのに帰る様子を見せないカイリューと目が合う。
「……」
「……」
「……」
「……」
「返事待ち、じゃないんですか…?」
無言のまま見つめ合う双方にユウキがそっと考えを述べると、オリヴィエは手紙とカイリューを見比べた後、なるほど、と呟いた。
「返事を貰うまでは帰って来ないように言われたの?…なかなか過激な御主人様だね」
「……それは何かちょっと違うと思います。…それより、何が書いてあるんですかね?」
開けてみましょうよ!とユウキが言えば、オリヴィエもコクリと頷いて視線を手元に戻す。
そして小さく眉を顰めた。
どこにでもありそうな白い、しかし宛名も無ければ差出人の名前すらも無い、よく見れば怪しい手紙。
少しばかり警戒しながら封を切って中に入っていたものを取り出してみる。
「…うわ、何これ」
「すげー! 立体映像!」
ホログラムの女性が浮かび上がり、こちらは何もしていないのに勝手に喋り始めた。
曰く、善と有望のトレーナーと見込んで、最強のトレーナーである主が開催するパーティーに招待するとのこと。
場所はニューアイランド、ポケモン城。
「……何これ」
「最強のトレーナーって…まさかマスターランクの人じゃ、」
「…ううん、そんな話聞いてないよ。もし彼らだとしてもこんな場所でやるはずないし」
「えっ、じゃあ一体誰が…?」
謎が深まる中、オリヴィエは同封されていた返信用紙を手に取る。
用紙にはYESとNOの文字だけが記されており、これにチェックを入れてカイリューに渡せば良いらしい。
「…どうするんですか?」
「…………よし、NOで」
「だと思いました」
NOにチェックを入れ、さらには持っていたカラーペンで派手に装飾を施す。
それをカイリューに渡せば来た時同様、颯爽と飛び去って行った。
「まぁ、最強のトレーナーなんて興味ないし」
「…すでにマスターランクの称号を持ってるから?」
「うん」
「……死ねばいいのに」
「!?」
*** END ***
M2映画の冒頭シーン。
この二人だとこうなるはず(笑)
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