A yearly lie

□His gray finger
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ベッドに放置したままだった黒い夜着を手に取る。この数時間帯アリスに付き添って、そして女王に捕まってから寝ておらず、身体は倦怠感に包まれていた。眠い。怠い。

いざ影とはいってみても、所詮は女。さすがに身体の構造までは変えられないのだろう。

ワイシャツを脱ぎ、下着姿のまま夜着に腕を通した。のろのろと怠慢な態度で着替えを続ける。

例えば、騎士がノックもせずに入ってきても。


「あれ、なまえじゃないか。ユリウスは?」

「……廊下の突き当たりの部屋でしょう」


アリスは捕まった私を放置して先に戻っていたので、おそらく時計屋と一緒にいるだろう。影を使うのも億劫で、確認もしないままボタンを留めていく。


「あれ、また間違えちゃったのかなー俺」


うるさい、早く出ろ似非騎士。

ぼそりと胸のうちに呟きながらズボンに手をかけようとして、なぁ、と声はいう。


「まさかそのまま着替えるつもりじゃないよな」


低い声に手が止まった。いつもの無駄に爽やかな声とは少し違う、皮肉めいた音程。

薄くため息をついて振り返ると、にこにこと笑う男はベッドに腰掛けて呑気に私を見ていた。
気のせいじゃなければちょうど奴が座っているところに私の下着が置いてある。

この似非騎士死なないかな。


「そうですが、何か」

「それって俺のこと信頼してくれてるってこと?」


なんでそうなる。

苛々としながらズボンのボタンを外しつつ返す。


「あなたが私に手を出すとは思えませんから」


そのままずるりと脱ごうとした瞬間、ぱし、と腕を掴まれた。背後を一瞥すれば、彼の顔は思いの外近い。

ぎり、と腕が痛む。

笑った顔が、怖い。その目の色が。


「なんで俺が君を襲わないと思うの?」

「……放してください、痛いです」

「答えてよ。簡単だろ?」


ぎりぎりと腕を掴む力は強まる。必然的に私はズボンを掴んでいた手を離してしまった。
ずり落ちそうになるのをもう片方の手で押さえ、少し高い位置にある青年の目を見据える。


「ああ、簡単だよ。嫌いな奴を抱く馬鹿はいない」


まるで意味を理解しているかのようにさりげなく吐き捨てた。
ただ相手の目を見つめて押し込める。
お前は気付かない。

騎士の茶色のような赤のような光彩がすぼまって、それから苦笑するように口角は歪んだ。
それがそのまま落ちてくるのを腕で拒絶する。


「ちぇ」

「油を売ってないで愛しの時計屋のところに行ったらどうですか。あなたの用事は彼関係でしょう」


するりと離れていくのを確認し、仕方なくズボンを履き直す。
この似非騎士が出てからゆっくり寝よう、そう思った次の瞬間聞こえた言葉に、肩が跳ねた。


「ああ、そういえばアリスが君を探してたよ。時計塔の広場で」

「は?」

「うーん、わりと疲れた顔してたけど、置いてきちゃって大丈夫だったかな。送ろうかっていったら拒否されたんじゃ仕方ないよなー、ははっ!」


朗らかに笑う声を振り返れば、彼は、ん?とにこやかに笑いながらさらに言葉を重ねた。


「早く行かなきゃ駄目だぜ、ナイトくん?」

「――っくそが」


舌打ちを一つ残して夜着を脱ぐ。ベッドの横に立つ男を押し退けシャツを羽織って部屋を飛び出した。

彼女の居場所を確認もしないで、騎士の間抜けな迷子癖すらも忘れて。



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