A yearly lie
□only yours
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「あ!」
朝起きてのんびり服を着替えてから廊下に出ると、大好きな夕日色の耳を見付けた。あたしに背を向けて歩いていく、可愛らしい巨大な恋人に向かってダッシュする。
「エリオットォォオ!!おはよおはよおはよ!!」
そのまますごい勢いで抱き付けばぐえっと兎に似付かわしくない声を上げて、エリオットは振り返った。
耳、耳……耳が揺れて……!!
思わず指がわきわきし始めた瞬間がっとそれを掴まれる。彼ははぁ、とため息をつきながら苦笑した。
「あのなぁ、あんたその癖どうにかしろよ。耳触られたりすんのあんただって嫌だろ?」
いいながら彼は何を思い出したのかふとにやりと笑った。それに比例するようにあたしの顔は熱くなる。
「な、何にやけてんの!」
「いや?別に?」
「……おっ、思い出してるもん忘れろォォオ!!」
広い屋敷の廊下であたしたちがこんなに騒いでいても、使用人の友人たちは欠けらも気に留めなかった。
生温ーい視線を送るだけだ白状ものめ!
掴まれた腕を引き抜こうとじたばたしながら暴れれば、エリオットは軽々とあたしを抱き寄せた。
そしてわずかにかがんで、右耳に入り込むような吐息。
「っひゃ」
「あんただって、ここ、弱いだろ?」
喋るなァア!!
発狂しそうになりながらどうにか顔を引き離そうとすれば、耳に軽くキスを落とされる。
鼓膜に直接響くような水音に、あたしはふにゃりと座り込みそうになった。それさえも軽く抱き上げてしまうこの恋人が憎たらしい。
「……ガチで兎になってしまえ」
「だから俺は兎じゃねえっていってんだろ。ほんとだったらこのままベッドに直行したいんだけどな……」
「朝一からナニする気!?」
今のエリオットの顔は草食動物じゃなかった!!肉食獣、ケダモノだった!!
ばっと身を守るように引き下がれば、彼はにやにやと笑ってあたしを立ち上がらせてくれた。あーくそう優しいなぁ。
「城行って来なきゃいけないからまた今度な」
ぽふぽふと頭を撫でられて、そうなのと首をかしげる。そして彼の耳を見て、もう一匹城に兎がいることを思い出した。
「はい、あたしも行く!」
挙手しながら声を張り上げれば、ふと彼の顔が歪んだ、気がする。あたしが眉をひそめた次の瞬間、彼はなんだかため息混じりに苦笑していった。
「構わねえけど、商談の邪魔するなよ?」
「もちろんですよエリオット様!うはーい久々だっ!」
久々に会う白兎のうざったそうな赤い目と、対照的な愛らしい耳を思い出してにやける。
元の世界で白い兎を飼ってたあたしからすると、彼の白い耳は親しみやすいのだ。
エリオットの腕に絡み付きながら、だけどあたしは彼の顔を見てはいなかった。
少しだけ不満そうなその顔を。
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