短編

□君が悪い
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「×ちゃんさ、俺が怒らないとでも思った?」


きゅ、と私の指に絡むザキの指は大きい。握り締められると、付き合ってもう半年も経つのにどきどきする。悔しい。

目を合わせないまま俯いていれば、不意に片方の指が離れてすっと顎を掴んで顔を上げられた。ぶつかったザキの瞳は、いつでも誠実そう。今は、よくわからない色だけど。


「聞いてる?」


こくりと頷く。口を開けば詰ってしまいそうだった。いつも以上に罵詈雑言が飛び出しそうだ。


「どうして、あの人とデートしてたの?俺に飽きちゃった?」


あの人、は銀ちゃんのことだ。さっきまで一緒にデートのフリをしてくれた人。ザキがふらっと現れて、私を連れ出すまで一緒にいた人。

続いた言葉に勢いよく首を横に振る。そんなわけない。


「じゃあ、なんで?それとも俺のほうが遊びだった?」

「違っ――ん」


否定の言葉を吐き出すより早く、甘い唇が重なった。息もできなくなるような深いキスに、好きで好きで泣きそうになる。立っていられなくなれば、すっと腰を抱かれた。

ザキは優しい。哀しいくらいに。

息が続かなくて呼吸を求めれば、ようやく離れてくれた。その近距離で見つめる。ねえ、私はこんなにもザキが好きなんだよ?


「ごめん。――いってくれなきゃ、わからないよ。それとも違うところで、ゆっくり聞き出したほうがいい?」


かあっと頬が熱くなる。知らぬ間に黒崎を呼び出していたみたいだ。いつものザキならこんなこといわない。

首を横に振って、ぎゅっとザキに抱きついた。いつもだったら絶対にしないこと。驚いたようにあわあわするところも、好き。やっぱりへたれだね。

真選組の黒い隊服からほのかに秋の香りが漂っていた。女の人の香りじゃなくて。

耳に唇を近付けて、小さく呟く。恥ずかしいから小さく、小さく。


「嫉妬、したの」

「――え?」

「隊服から香水の匂いがした。しかもザキ仕事でいろんな人に関わるから、だから――」


早く言い切ってしまおうと早口になれば、ぎゅうと強く抱き締め返された。痛いくらいなのに、絶対優しさは消えない。

顔を上げてザキを見れば、黒くて甘い笑みが浮かんでいた。あ、これやばい気が……。


「そんなに不安なら、安心させてあげる」

「待ってザキ落ち着いて気のせいじゃなきゃ今真っ黒い狼に」

「気のせいじゃないよ。そうやって可愛いこという」


君が悪い


(美味しくいただきました)
(……かっこよ過ぎて死ぬ……)


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