短編

□直接教えて
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ベッドの中に寝ている栗色を見つけて、思わずはぁとため息を吐いた。そして学校に来てまでも意地汚く眠ろうとする生徒の布団をひっぺがす。


「こらっ!もう授業始まってるのよ、起きなさい!」


怒鳴り声にちらと目を開いてこちらを見、彼はようやく上体を起こした。なんでこう余裕綽々なのか全くわからない。仮にも生徒でしょといいたくなる。


「あんまガミガミいってると皺増えますぜィ」

「じゃあ怒鳴らせないでくれる?学校に来てるならついでに授業出なさいよ、ここじゃなくて」


目を吊り上げながら怒っておくが、どうせ彼にはなんの打撃にもならないのは承知済みだ。建前だけでも怒っておかないとぐちぐちいわれるのは私なのだ。

がちゃ、と音がする。彼がベッドから降りたのだろう、あのベッドももう駄目かな。

ため息を吐きながら机のほうに戻る。保健便りなんて一体誰が見るっていうんだろう。明日まで、というのに終わってない仕事の山に、もう一つため息をこぼした。


「×ー、まだ寝てたいんでィ」

「呼び捨てにしないでくれる?先生つけなさい先生。保健室は君が寝るための場所じゃありません。眠いならきちんと夜寝なさい。それから抱きつくな!」


なぜこの二年生はこうもべたべたとスキンシップをとりたがるんだ。顔面に肘鉄を入れようとして避けられた。ああもううざったい。


「生徒に肘鉄食らわそうなんざ保健医失格じゃないんですかィ?」

「君は別。うざすぎるから可愛い生徒として認めない。ていうか君が授業受けないでここにばっか居座ってるの、問題視されてるのよ?おかげで変なこと言われて大変なんだから」


主に、高校生相手に色気を振りまいてるだの、淫らに接してるだの。

失礼極まりない。第一私に欲情するほど欲求不満な高校生なんかいるわけないじゃないか。それに沖田君ほど顔の良い子がモテないわけがない。まさにいらない勘繰りだ。

まだ抱きついて離れない彼をもう放置し、机から書類をとって読み出せば、いきなりそれをぐいと奪われた。


文句を言う間もなく急に近づく顔。ほんと憎らしくなるほどきれいな可愛らしい顔が、やけに真剣に見えてどきりとする。


「変なことって具体的に何ですかィ?」


「そんなもの決まってるでしょ。君相手に色気を振りまいてるー、だとかなんたらかんたら。ガキ相手に色気振りまくほど暇じゃないって……」

「――へぇ?色気振りまいてたわけじゃなかったんですかィ?」

「――ちょ、え?」


突然、抱き締め力が強まった。振り返ろうとすれば、腰を撫でる、手。それの意図は、さすがに疎い私でもわかる。


「なっ、や、止めなさい何してるの!?ふざけるのもいい加減に――」


ゆっくりと撫でられて頬が熱くなる。いやいやいや駄目だって何私までつられてるの、しっかりしなさいよ×!

そう内心で自分に叱咤激励を飛ばした瞬間、耳元で甘い吐息が囁いた。


「――ひゃっ!」

「ふざけてなんかいやせん。×センセ、俺こないだの保健でわかんないとこあったんでィ」

「……っほ、保健のことは私じゃなくて体育の――っや」


先生に教わりなさい、そう言おうとして、背後から首筋に何か温かいものが這う。思わず肩をびくつかせ叫べば、耳元でまた彼は甘い声で笑った。


「×に、直接教えて欲しいんでィ」

「だだだだからっ呼び捨てにしない!そういうことしたいならAVあそこにあるから隣の部屋で一人でやりなさい!!」


どうにか教師としての威厳を取り戻そうと、焦りながら叫ぶ。代々の保健医最後の砦であるAVまで使われちゃったら、これからAV目当てに保健室来る子が増幅しちゃうが、貞操の危機だ、背に腹はかえられない。

さよなら私の平穏な保健室……。

と、やっと彼が離れたと思ったのも束の間、いきなり手をぐいっと引かれた。振り返ればそのまま引き寄せられ、なぜか肩を抱かれたまま保健準備室に向かわされる足。私がさっき沖田君に一人でやれといった、部屋。

はっと足を止めて彼の手にあるものを見、顔から血の気が引いた。

なんでそんなに楽しそうなのよ!?


「まままま待ちなさい、大人をからかうのはやめようね沖田君!!」

「からかってやせん、本気ですぜィ?ちなみにどれくらい本気かというと、あんたの夜の相手毎日勤めたいくらいでィ」

「それ明らかに楽しいの君だけでしょ!!っちょ、誰か、センセェェエエッッ!!!」

「残念でした、鍵はもうすでに施錠済みでィ」


私の目の前で彼の長い指先をくるんと回る鍵。にっこりと腹黒く笑った彼は、軽々と私を抱き上げた。


「嘘でしょっ!?いや、ちょ、えっ」


じたばた抵抗しながら逃げようとすれば、ベッドにどさりと放り投げられ、その上にのしかかる、君は。


愉しそうに嬉しそうに、
獰猛な眼差しを私に向けて、
舌なめずりをしたのだった。


「諦めてくだせェ、×センセ?」


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