短編

□君の飼い猫
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「おーい山崎さんいるー?」


大声を上げながら屯所の中に侵入する。本当は玄関から来いって毎度局長さんだとか副長さんだとか沖田さんとかにいわれるんだけど、なんとなく、ね。
塀あると飛び越えたくなるし、留守のお家があったら空き巣に入りたくなるタイプの根っからの泥棒には無理な話なんだよね、これが。


それから、山崎さんに見つかるのは、嫌じゃないから、かも。


そもそも私が彼らと知り合ったのが、泥棒家業をしていたらまさか大規模な攘夷浪士の討ち入りに巻き込まれてしまったのである。
いろいろあって気絶して、目を覚ましたら病院のベッドの上で。なおかつ手錠をされていました。

荷物の中にいれていた金目の物がその店のものだってバレたから。いやぁ懐かしい。

あんまりよく覚えていないけど、そのとき私を助けてくれたのが山崎さんだったらしい。いわれてみれば確かにそんな気もしたりする。

泥棒家業は局長さんに怒られて廃業することになった。仕事がなくなった私を哀れんで、代わりに私を真選組の監察方の下っぱにしてくれたんだから優しいったらない。ていうか大丈夫なのだろうか。


でもそんなわけでここにいられることは、結構本気で感謝してる。

なんでかな、私はどうやら山崎さんがお気に入りみたいだ。別に特に用もないのにふらりと会いたくなるのだ。

それは、私を優しく抱くあの人の手が切ないほどに温かいから?


なんて、どうでもいいことを考えながら、塀の上を踊るように歩いていれば、突然伸びてきた手に引きずり下ろされた。そんな乱暴なはずの仕草すら、この人がやると、なんだか優しい。なんでかな。


「塀の上歩くのは駄目だっていったよね、俺」


少し怒ったような声も可愛い。私はへへっと笑って山崎さんの腕から飛び降りて、改めて抱きついた。安心する、この人の匂い。


「山崎さんだー」

「呼んだの×ちゃんじゃん……」

「うん。あのさ、今日って山崎さんの誕生日だよね。おめでとう」


頷いて山崎さんを見上げて笑顔で言う。驚いてくれたみたいだけど、問題はここからだ。沖田さんから教わったことを実践してみる。確か少しだけ首を傾げて上目遣いだっけな。


「それで、プレゼントがあるんです」

「な、何?」


吃りながら顔を赤らめ、視線を彷徨わせる山崎さんに癒されながらけろっといってみた。


「今山崎さんの腕の中にあるもの、あげる」

「――っは!?」

「私、あげる。いらない?」


ただ山崎さんを見ながらいってみた。それがどういう意味なのかはあまりわからなかったけど、私が野良じゃなくなるだろうことはわかった。この人の飼い猫になるのだ。

山崎さんはこれ以上ないほどに顔を赤らめていたけど、不意に私を掻き抱いた。そして耳元で囁く声は、私を抱くときの甘く優しい声。


「……欲しい、よ。×が、欲しい」


じわじわとその声に犯されるようで、腰から震えが走るのを感じる。

彼の薄い唇が耳を甘噛みし、それだけで私は立っていられなくなる。しがみつきながら彼を見上げれば、耐えられなくなったのか山崎さんは性急に私を抱いた。

いつもと違って外だったし、バレるわけにもいかないから、私たちはいつにまして静かだったけど。


その倍くらい、山崎さんの心音が聞こえたから、構わない。

それからやっぱり。


「……俺のものになってくれるんだよね、×ちゃん」

「……っうん」


私を抱いて、愛撫して、喘がせる指先と唇は、優しくて温かくて。

いつまでもあなたの猫でいたい、そう思わせるほどに、大好きです。



君の飼い猫


HappyBirthday山崎退!!


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