短編
□返却不可のプレゼント
1ページ/1ページ
「やっふーいトシくんヒマしてる?」
ふと出先で見かけた黒い隊服に気が付いた私は、躊躇いなくその背中を叩いた。がはっとか苦しそうな声が聞こえるのと同時に、私に気付いていた総悟がおっすと声をかけてくる。
「姉さんダメでしょ、今マヨ入り煎茶飲ませようとしてたのに邪魔しちゃァ」
「うっわまじでか。そりゃごめんね。代わりに君にはいいこと教えてあげようおいでおいで」
「何ですかィこいつの弱点なら知り尽くしてますぜ?」
「ほらいいから耳貸しなって」
にやにやしながら会話を続行しようとしていると、突然背後から頭をがっと掴まれた。般若が見えない大丈夫。鬼が見える、大丈夫じゃなかった。
「……×?何言おうとしてんだてめえ……?」
「トシの弱点でったい痛い!!やめなさいよ幼気な市民殴るなんて!」
「そうですぜ、こんな絶壁でも市民でさァ」
「総悟あとで面貸せ」
絶壁とは失礼な。スレンダーとかいえないのかこいつ。
じろりと隣に立つ少年を睨んでからトシを見上げると、びきりと頬とかその他もろもろを引きつらせていた。ぐいぐい縮めようとする手を離してくれないかなー。
「……てめえのどこが幼気な市民だァア!!そもそも幼さのかけらもねえじゃねえか!」
「幼気=幼いだと思ってるあたりロリコンの気あるんじゃね。大丈夫?トシついに幼女にまで手出すの?」
「にまでってなんだにまでって!!お前調子乗ってるとさばくぞ……?」
「解体ショーのネタにはされたくないので拒否する!」
「拒否権あると思ってんのかァア!!」
「ないわけがなかろう」
「意味わかんなくなるんで黙ってなせェ土方この野郎」
「てめえが黙れ?な?」
ぎりぎりするトシの手を振り払って、総悟のほうに近寄った。
「なんでさァ」
「おい、×、総悟誑かすなよ」
「「ねえよ」」
「総悟やっぱ面貸せ」
んん?随分失礼だなあとじろりと睨んではき捨てる。総悟はにやっと笑ってから手のひらを返して、そのまま歩きだした。慣れた退場に苛立つのはなんでかなー。
「今恩売ってやるんでしょうや、チャラにしろィ」
「おいこら総悟!!さぼるのも大概にしろ!!」
「さぼるなんて失敬な、幼気な市民のために仕事してやってんでさァ。……×、うまくやれよ」
ぽすんと横を通り抜けるときに頭に手が落ちて、うんと軽く頷いた。本当は、ただちょっと緊張して、声が出なかっただけなんだけど。
そして道端で二人っきりになった。高いところにある鋭い視線が突き刺さって、でもそれが嫌じゃないんだから笑えてくる。好きすぎだっつの。
「で、総悟追い払ってまで話したかったことってなんだよ?くだらないことだったら斬るぞ」
「ちょ待てやなんで殺気立たれなきゃいけないの。……トシ、今日誕生日でしょ?」
やれやれ物騒なやつめ、そんなふうに笑いながら尋ねれば、真剣な瞳が瞠目した。おーでかい。
「お前、それ誰から……っていや、あいつしかいねえか。で、それがどうした?」
「そうそうあいつ。んでさ、誕生日プレゼントとか考えたんだけど」
いうと視線が上から下へと滑っていく。うん、まあそりゃそうだよね、私今もろ手ぶらだし。視線に応えるように両手を返してばーとかいいながら、何も持ってませんアピールをする。トシは案の定少し困惑した眼差しをこちらに向けた。
さあ、ここからがうん、恥ずかしいパターンだ、できるかな。
「プレゼント、あげる。ほれ」
いいながら、ん、と両手を差し出す。でもこいつ意外と鈍いからなーわかんないからなー言わなきゃだめかこれ?
悩んでトシから視線を外した次の瞬間、ぐっと両手ごと体が引き寄せられて、私はトシの腕の中にいた。隊服から香る煙草の匂いに、胸がとくりと音を奏でた。
うわぁあああここ屋外ぃいい!!!視線痛い!!
「トトトトシくん!?ご乱心なうかそうなのか!?ちょ、ここ屋外ぃいい!!!」
「るせ。ったく待たせやがって……。もちろん、ちゃんとその分返してくれんだろうな、×?」
うぐっと思わず言葉に詰まる。後頭部に押しあてられた唇から紡がれる声は、甘いなんてものじゃなくって、私は淘然としてしまう。そりゃトシの告白に返事しなかったの私だけど……。
「……か、返してやるわよしゃあないから。ふん精々這いつくばって喜べ」
「プレゼントじゃなかったか?」
うぐっとまたまた言葉に詰まる。あーチクショウ、なんか悔しい。絶対トシこれ笑ってんじゃん。証拠に落ちてきた低い笑い声に、どうしようもなく胸が高鳴る。
あーやばい、好きだ。
トシの隊服に埋めていた顔を上げて、不意討ちでキスしてやる。それからへへっと笑いながらいってやった。
「誕生日おめでとう、トシ」
返却不可のプレゼント
HappyBirthday土方十四郎!!