短編

□返却不可のプレゼント
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「やっふーいトシくんヒマしてる?」


ふと出先で見かけた黒い隊服に気が付いた私は、躊躇いなくその背中を叩いた。がはっとか苦しそうな声が聞こえるのと同時に、私に気付いていた総悟がおっすと声をかけてくる。


「姉さんダメでしょ、今マヨ入り煎茶飲ませようとしてたのに邪魔しちゃァ」

「うっわまじでか。そりゃごめんね。代わりに君にはいいこと教えてあげようおいでおいで」

「何ですかィこいつの弱点なら知り尽くしてますぜ?」

「ほらいいから耳貸しなって」


にやにやしながら会話を続行しようとしていると、突然背後から頭をがっと掴まれた。般若が見えない大丈夫。鬼が見える、大丈夫じゃなかった。


「……×?何言おうとしてんだてめえ……?」

「トシの弱点でったい痛い!!やめなさいよ幼気な市民殴るなんて!」

「そうですぜ、こんな絶壁でも市民でさァ」

「総悟あとで面貸せ」


絶壁とは失礼な。スレンダーとかいえないのかこいつ。

じろりと隣に立つ少年を睨んでからトシを見上げると、びきりと頬とかその他もろもろを引きつらせていた。ぐいぐい縮めようとする手を離してくれないかなー。


「……てめえのどこが幼気な市民だァア!!そもそも幼さのかけらもねえじゃねえか!」

「幼気=幼いだと思ってるあたりロリコンの気あるんじゃね。大丈夫?トシついに幼女にまで手出すの?」

「にまでってなんだにまでって!!お前調子乗ってるとさばくぞ……?」

「解体ショーのネタにはされたくないので拒否する!」

「拒否権あると思ってんのかァア!!」

「ないわけがなかろう」

「意味わかんなくなるんで黙ってなせェ土方この野郎」

「てめえが黙れ?な?」


ぎりぎりするトシの手を振り払って、総悟のほうに近寄った。


「なんでさァ」

「おい、×、総悟誑かすなよ」

「「ねえよ」」

「総悟やっぱ面貸せ」


んん?随分失礼だなあとじろりと睨んではき捨てる。総悟はにやっと笑ってから手のひらを返して、そのまま歩きだした。慣れた退場に苛立つのはなんでかなー。


「今恩売ってやるんでしょうや、チャラにしろィ」

「おいこら総悟!!さぼるのも大概にしろ!!」

「さぼるなんて失敬な、幼気な市民のために仕事してやってんでさァ。……×、うまくやれよ」


ぽすんと横を通り抜けるときに頭に手が落ちて、うんと軽く頷いた。本当は、ただちょっと緊張して、声が出なかっただけなんだけど。

そして道端で二人っきりになった。高いところにある鋭い視線が突き刺さって、でもそれが嫌じゃないんだから笑えてくる。好きすぎだっつの。


「で、総悟追い払ってまで話したかったことってなんだよ?くだらないことだったら斬るぞ」

「ちょ待てやなんで殺気立たれなきゃいけないの。……トシ、今日誕生日でしょ?」


やれやれ物騒なやつめ、そんなふうに笑いながら尋ねれば、真剣な瞳が瞠目した。おーでかい。


「お前、それ誰から……っていや、あいつしかいねえか。で、それがどうした?」

「そうそうあいつ。んでさ、誕生日プレゼントとか考えたんだけど」


いうと視線が上から下へと滑っていく。うん、まあそりゃそうだよね、私今もろ手ぶらだし。視線に応えるように両手を返してばーとかいいながら、何も持ってませんアピールをする。トシは案の定少し困惑した眼差しをこちらに向けた。

さあ、ここからがうん、恥ずかしいパターンだ、できるかな。


「プレゼント、あげる。ほれ」


いいながら、ん、と両手を差し出す。でもこいつ意外と鈍いからなーわかんないからなー言わなきゃだめかこれ?

悩んでトシから視線を外した次の瞬間、ぐっと両手ごと体が引き寄せられて、私はトシの腕の中にいた。隊服から香る煙草の匂いに、胸がとくりと音を奏でた。

うわぁあああここ屋外ぃいい!!!視線痛い!!


「トトトトシくん!?ご乱心なうかそうなのか!?ちょ、ここ屋外ぃいい!!!」

「るせ。ったく待たせやがって……。もちろん、ちゃんとその分返してくれんだろうな、×?」


うぐっと思わず言葉に詰まる。後頭部に押しあてられた唇から紡がれる声は、甘いなんてものじゃなくって、私は淘然としてしまう。そりゃトシの告白に返事しなかったの私だけど……。


「……か、返してやるわよしゃあないから。ふん精々這いつくばって喜べ」

「プレゼントじゃなかったか?」


うぐっとまたまた言葉に詰まる。あーチクショウ、なんか悔しい。絶対トシこれ笑ってんじゃん。証拠に落ちてきた低い笑い声に、どうしようもなく胸が高鳴る。

あーやばい、好きだ。

トシの隊服に埋めていた顔を上げて、不意討ちでキスしてやる。それからへへっと笑いながらいってやった。


「誕生日おめでとう、トシ」



返却不可のプレゼント



HappyBirthday土方十四郎!!

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