短編

□special voice
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「アリス……、君は本当にかわいいね……」

「……っ」

「顔赤くしちゃって。ふふ、本当かわいい」


赤くなったアリスの頬を撫でようとしたとき、横からぱしんと指を掴む手があった。空気を読まない馬鹿をアリスと一緒に睨む。


「邪魔すんなよー」「邪魔しないでよボリス!」

「あのさぁ……、それ、楽しい?」


ピンク色のパンクな猫耳青年がわずかに頬を引きつらせて立っていた。
KY猫の手をぺいっと払ってアリスにさっき作ってもらったケーキを、おいしく頂戴する。それを見てアリスがマジ顔でボリスに掴みかかっていた。


「何で邪魔するのよボリス!×たまにしかやってくれないからケーキで釣ったばっかりだったのに!」

「おいしい!もっかいやって欲しかったらフルーツタルト一個で都合してあげるよアリス」


おいしいケーキをほおばって思わずにこにこ笑いながら彼女にいえば、金髪碧眼の美少女はぱあっと笑顔で振り返った。


「本当!?わかったわ、次はフルーツタルトね!」

「いくら×が美声でもさぁ……、女にやってもらうってどうなのそれ?」


ボリスは不満たらたらそのものにアリスに白い目を向けていたが、アリスは気付いちゃいない。
早くもメイドさんたちとどんなフルーツタルトにするか談議中だった。

そんなかわいそうな奴を見ながらケーキをほおばっていると、ふいに後ろからぎゅう、と抱き締められた。
ふさふさした柔らかい毛が顎を撫でて、純然たるうぶな日本人であるあたしはパニくって顔が赤くなる。うわぁぁあああ!!!


「ボボボボボリス!?」

「トマトみたい。かわいい」


ちゅっと嘘っぽいリップ音をつけて頬にキスされ召されかける。フォークを置いて引き剥がそうと腕を掴むけど、非力なあたしが引き離せるはずもない。

ちらっとアリスたちを見やれば、いつのまにやらメイドさんたちに誘導されて消えていた。侵入者とあたしを置いてかないでぇえええ!!


「アリスばっかりずるくない?」

「ひゃっ、だ、みっ耳元でしゃべんないでよ!!てか何!?ボリスかわいいっていわれたいの!?男の娘志望か!!」


ボリスの猫耳はかわいいとは思うけど、わりと男性らしい体格だから微妙に似合わない気がする。

なんて悶々と妄想を開始し始めていたあたしの目を覚まさせたのは、ぺろりと舐められた耳だった。


「ぬゃぁああああっ!!!」

「色気ないねー」

「うぅうっさいわ!!!やややややだやだやだやだ離せ!!」


めちゃくちゃに暴れ狂う。
フォークが手にあたったから掴もうとしたら、その上から大きなボリスの手が重なって押さえ付けられる。ぎゅっと掴まれるついでにハグする力も強くなった。

ひゅっと息を飲んだら、耳元でボリスはくすっと笑った。むかつくくらい色気があってぐずぐずと泣きたくなる。あう目え潤んできやがった。


「ボリス……」

「ん?」

「何ていったら離す……?」


こういうときは諦めが一番だ。

あんまりあたしの声を褒めないからボリスは好きじゃないのかと思ってたけど、こんなにしてまで聞き出すなら嫌いじゃないのかもしれない。
それならちょっと嬉しいし、どちらにせよ離して欲しいからおねだり。

赤い顔のことは一旦忘れて、ボリスの目を見ようと顔を上げた。
そこにあるのはきれいな琥珀色の瞳。昔飼ってた猫そっくりの目を見るたびに、あたしの胸はとくとくと音を立てる。

でも、目ばっかり見てたから、彼の口元がにやりと歪んだのには気付かなかった。

耳に顔が近づいてきて、思わず後ろに身を寄せようとするけれど、できなくてぎゅ、と抱き締められる。目をつむったあたしの耳に落ちてきたのは。


「好きっていってよ、×」


甘い蜜でも含んだような声に、ふにゃりと体から力が抜ける。顔はきっとトマトみたいに、ううん、それ以上に赤いんだろうけど、絶対絶対応えない!!



special voice




(……)
(何で黙ってるんだよ)
([美声キャラから無口キャラに一転します])
(へーえ。じゃあ俺以外に聞かせちゃダメだよ?あんたの甘い声)
(!?――ぴゃっ!ゃ、ボリ、ス……!!)
(――ん、かわいい)
(この――っド変態!!あたしの美声はあんたのじゃないやい!!!)
(はいしゃべったー、お仕置きな?)
(ぎゃぁああああ!!!アリス助けてぇぇえええ!!!!)


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