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□一
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斬る。

斬る。

斬る。

簡単な仕事だ、ただ何も考えずに無造作に斬ればいい。切るのではなく、斬る。突くのでも打つのでも切るのでもなく、斬り捨てる。

ただ、今回に関しては、そこまで傍若無人には動けない。

今まで私が好き勝手斬り殺せたのは、まず間違いなく土方君と沖田君、そして局長がいたからだ。彼らの一見ワンマンプレイのような戦いは、お互い知らぬ間に相手を信頼しあってるからこそできたこと。今の私にそれはない。

一人で戦うのはいつぶりだろう。
ふと夢想に耽る。

確か、丁度十六、この刀をもらった年だった。そのときはまだ、柄の部分は新品そのものに柔らかな光沢を出していた。そして、それで初めて。

殺した。


「――っ!!」


思った瞬間わき腹に熱い一撃を食らう。相手が笑うことを許さずに、逆に踏み込んで腹を斬り裂いた。それを乱暴に蹴り飛ばし、横からくる刀から身を捻って逃れ、その反動を使い自身の刀で相手を裂く。

一人の戦いで夢想するなど、相手を舐めくさってるのは私か。

刀を手入れする際、面倒だからと外してしまったイヤフォンを思い出して舌打ちする。大音量のままだが、ノイズが混じって聞こえない。

もう山崎君と友近は、向こうが囮だと気付いただろう。彼らが戻るか、はたまた土方君たちが来てくれるか。

既に救援のことを考えている自分に笑ってしまう。だが笑えない状況なのもまた事実だった。

どのくらい時間が過ぎたのかわからない。幾人斬った?あと何人斬ればいい?誰を殺せばいいのだ?

廊下から冷気が忍び寄り、それが肌を撫でてより身体が熱くなる。じわりと滲んだ汗が目に流れ込み、歪む視界の中乱暴に斬る。既に型など失われているだろう。

一歩踏み込みながら相手を斬る。背後にはもういないはずだと思っていたから、襲い来る殺気に身の毛がよだつ。うし、――ろっ!!


「うっ!!」


ザシュッ――!

なんともわかりやすい効果音が響き背中を真っすぐに、熱によく似た激痛が駆け抜けた。たたらを踏みそうになるのを必死に耐え、踏み出した足を軸に反転し斬り付ける。

どう、と相手が倒れ伏せたところに飛び退けば、相対していた敵の刀が肩を撫でた。噴き出る血に汗が滲む。

残るは二人。散らばった肉体は八つ。対して私の身体にできた大きな傷は二つ。

血が、足りない。

足元がふらつきそうになるのを、唇を噛んで堪える。背中の傷は深い。だらだらと身体の中の血液が無造作に垂れ流されていく。痛い、熱い。

巻いたさらしも切れたのか、胸元が不安定だ。つくづく女の身体に生まれた自分が憎くなる。

相手を睨んでいるのかさえあやふやだ。向こうに傷は?胸部に一つ、肩に一つ、腕に一つ。ああ、そうか一人は生け捕りにしなきゃいけないのか。ならば足を斬らねばならない。

狙いをわずかに変えたのを察したのか、二人はにわかに緊張感を増した。
鍔がカチ、と音を立てたその瞬間。

ドカアアァアァアンッ!!!!!

爆風に視界を奪われながらも、私は脱力していた。思わず苦笑が漏れる。何て登場の仕方をしているんだか。

赤い眼の少年は、バズーカ片手に襖を跨いでその場に現れた。真っすぐに私の目を射ぬき。


「何やられてんでィ、馬鹿野郎」


沖田君は、不機嫌極まりなく吐き捨てたのだった。

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