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□一
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真っ先に目に入ったのは白い天井だった。身を起こしつつ沖田君が来てからの昨日のことを思い出す。

彼はバズーカで焼け焦げになりつつも奇跡的に生きていた攘夷浪士を生け捕りにし、手錠をかけてから私のほうに近づいてきた。刀から血を払い、鞘に収めていた私は、なんてことのない表情で振り返り。

初めて本気で沖田君に怒鳴られた。

改めて思い出すとむかつく。弟分のくせに生意気だ。

最後までお叱りを聞いてあげられなかったのは残念だが、長々説教するほうが悪い。こちとら重傷を二つも負って血塗れだったのだ、倒れたって仕方ないだろう。
私は彼の説教中、限界が来て崩れ落ちたのだ。それからあとの記憶はない。多分沖田君がパトカーまで引きずってってくれたんだと思う。

でも、と苦笑する。実際彼の言う通りだ。甘く見積り勝てると過信したからこその、あの怠慢。局長に土方君、それから巻き込んだ山崎君と友近に悪いことをした。

また説教か、と萎えるが、仕方ない。自業自得というものだ。


「未熟、だなぁ……」


ぽつりと呟く。女であるおかげで個室だが、その中で静かに言葉は落ちた。窓の向こうで暮れゆく夕陽を眺めながら、身動きのとれない状態に嫌になる。つまらない。

と思ったのも束の間、扉ががらがらっと音を立てて引かれ、局長と土方君が入ってきた。そして、上体を起こしている私を凝視し、固まった。

うん、これは。


「ちゃお」


……。
………。
…………あれ、珍しいそろそろ土方君の突っ込みが入るはずなのに。

代わりに勢いよく局長が飛び掛かってきた。刀もない上こちらは怪我人、とっさに手で目を突きそうになっても許していただきたい。


「壱ー!!!!!!!うがっ」

「なんですか局長飛び掛からないでくださいゴリラのくせに」

「ひどくねめっちゃひどくね!?」

「どうかしたんですか?ただ寝てただけなのにここまで猛烈なモーニングコールは正直……」

「何いってるんだよ壱!お前丸々二日も寝込んでたんだぞ?父さんどれだけ心配したことかっ」

「は――?」


二日、といったのだろうか。わけがわからぬままゴリラ、もとい局長を見上げる。疑問符に答えてくれたのは、私が目を覚ましたことを誰かに伝えにいっていたらしい土方君だった。

私から局長を引き剥がしつつ、ほっとしたようにいう。相変わらず病室ですらタバコを離さないニコチン中毒者だった。


「あのあとお前意識混濁して危ないところまでいったんだよ。背中の傷がやばかったらしいな。で、丸々二日寝込んだと」

「では今日はもう二十六日ということですか?」


信じたくないが真実らしい。こくりと頷かれて思わず頭を抱えた。最悪だ。


「……すみません、ご迷惑おかけして」

「謝れっていってるわけじゃねえよ。被害にあったのはお前だけだし、ここまでことを小さくできたのもてめえの力量だ」

「……っ」

「でもよ、もう少し冷静になれや。使えるもんは使う。それがてめえの信条だったはずだろ?見誤ってどうする」


言葉が胸に刺さる。使えるものは使う。それをしなくなったのはいつからだろう。できなくなったのは。

くしゃりと頭が撫でられる。顔を上げれば、局長が目尻に涙をためつつ、穏やかに笑っていた。心配、させたのだ。


「壱。護りたいもののために、自分を傷付けるのはよそう。少なくとも、今回護られた俺たちは、心配で心配で苦しかったよ」

「第一てめえに護られなくったって死にゃしねえよ。真選組のツートップ舐めんじゃねーよ」

「トシ」


局長にたしなめられつつも、紫煙を撒き散らす。私はこくりと頷いた。


「ありがとう、局長、土方君。
――それはそうと、山崎君や友近、林と前田は無事ですか?」

「奇襲しかけにいった奴らは全員無事だ。林は額に小せえ傷と、右足に切り傷、前田は左足骨折とかだったな。重傷はお前だけだ」


骨折は重傷の類ではないのだろうか。でもまぁ、無事ならいい。
ほっと息を吐いて、笑う。


「とりあえず無事でよかったです。かえ様はどうなりました?」

「今は山崎がついてる。総悟と話したらしくてな、幻想が砕けて絶望したみてえだ」

「あー……、うん。そういえば沖田君はどうしました?」

「さっき連絡したからもうすぐ来るんじゃねえか?」

「総悟も連絡受けたときは大変な顔してたよなぁ、トシ」

「大変な顔?」


意味がわからず聞き返せば、扉が乱暴に開かれて私の声は掻き消される。苛立ちを顕にしかつ汗だくの彼を見て、そそくさと逃げ出そうとする局長と土方君の服を掴めば、菩薩のような笑顔で引き剥がされた。

裏切り者!!

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