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□一
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宵闇がゆったりと忍び寄るのを、襖を開けて眺めていれば、反対側の襖から声がかかり、山崎君が入ってきた。
「うっわさむ!斎藤さん身体に悪いですから閉めたほうがいいですよ?」
早春というより真冬のような寒さを受けても平然としている私を、まるで珍獣でも見るかのようにして見た。面白い。
「失礼な。寒くはないですよ。それよりどうかしましたか?」
「感覚おかしいんじゃ……」
「山崎君?無駄口叩くなら斬りますよ」
「すいませんでしたぁあ!!!……じゃなくて、手紙がいくつか来てます」
「ああいつもご苦労様」
手渡された数枚の手紙の宛名を眺めていき、最後の少し材質の違うものが目に留まった。
暇ではないはずなのになぜか山崎君も一緒になって見ている。
「これ以外全部ラブレターじゃないですか……」
「筆まめじゃないのに期待されているようで困ってしまいますね、こういうの」
「……嫌みですか?」
「何がです?」
とぼけて笑顔で聞き返せば、ぐちぐち文句をいいつつ視線をそらす。
高価そうな材質のそれを開けば、達筆な文字が並んでいた。読んでいくうちに自然、眉がひそまる。
「……これと同じ手紙、局長と土方君にもきていましたか?」
「え?あ、えっとありましたね。名前がない代わりにその文様が入っているもの……」
「他に誰かに送られていましたか?」
「いえ、三人だけだと思います」
「そうですか。ありがとう、山崎君」
沖田君に情報がいっていなければ問題ない。思わず薄いため息がこぼれた。
「これじゃあしばらく夜遊びができませんね……。仕方ない、今日いってきますか」
着物を変えようと立ち上がれば、山崎君が盛大にお茶を噴き出した。
「っぶはぁあ!?何言ってるんですか斎藤さん!!これ仕事ですよね!?」
「山崎君あとで完璧に掃除しておかなければどうなるかおわかりですよね?」
「……!!」
がくがく震えるあたり可愛いものだ。
にっこり笑いながら襖を閉める。自身の手が冷えきっていることに初めて気が付いた。
「求めて下さる女人を私が啼かせないと思いますか?」
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