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真選組三番隊隊長、斎藤壱。
彼が有名なのは、その中性的に甘い容姿も、一番隊隊長沖田総悟と互角の腕前もあるが、何より好色であることが一番だった。
いつからかまことしやかに遊女や夜遊びをする男たちに流れた噂では、彼によって啼かされた女たちは、途端に美しさや妖艶さが跳ね上がるというものだった。
吉原の出入りを禁止されている身の上のため、必然的に彼が向かう場所は決まっている。
風情の欠片もない繁華街の一角、その中では最も高級とされる娼館に、ためらいもなく踏み入れた。
ここの女たちだけは、彼が彼女であることを知りつつ、その身を開く。
言うなれば彼女は麻薬だった。
求めずにはいられない、依存性の高過ぎる麻薬。
「おや、斎藤さんいらっしゃい」
「今晩は、女将。実は一ヶ月ほど仕事が入ってしまいまして」
そう穏やかにいえば女将はあらと残念そうに眉を下げた。彼女も現役の頃はさぞや美しかったのだろう美貌を、老いてなお面影を残している。
「それじゃあ新米じゃあ足らないわねえ……。今珍しく上のほうのお客さんがいらっしゃってて、柳扇たちが出払っているのよ」
柳扇は私が大層可愛がっているこの店の最も人気な遊女だった。会えないのは口惜しいが仕方ない。
「代わりにいるのが新米でねえ……。この子がまああなたを嫌ってて」
曰く、女色が遊女を買うなんて馬鹿にしていると口巻いているらしい。随分と勝ち気なお嬢さんだ。
知らず、口元に笑みがのる。
「可愛いらしいものですね。その子とぜひお会いしたい」
そういえば、女将は明らかにほっとしていた。手がかかるお嬢さんらしい。
女将と別れ、与えられた部屋に向かう。そこはほぼ私専用のような部屋で、館の中の奥まったところにあり、窓際から外の様子が窺い知れる。
この時期には必ずといっていいほど、椿の花が生けてあるのも嬉しいものだ。
窓を少し開けば、冷気が部屋に舞い込む。明後日からの仕事を思うと、面倒でため息がこぼれた。今日くらい愉しまなくては意味がない。
襖の向こうで人が動き、しばしのためらいのうち、声がかけられる。不愉快極まりない声音に噴き出しそうになるのをこらえた。
「お待たせいたしました。佳扇と申します」
「お入り」
襖を開き、艶やかな衣を身に纏った女が入ってきた。高慢そうな顔がつんと私を見、一瞬驚いたように目を見張る。
従われてきたかむろは、以前柳扇も連れてきた子だった。確か宮、という名前だっただろうか。少女は私を見るとわずかに頬を染めた。初々しい。
「この度はわたくしめをご指名くださりありがとうございます。一夜限りの夢ですが、どうぞお相手――」
「いいたくもない言葉はいらないよ。それより私は酒が飲みたい。酌をしていただけるかな、佳扇?」
言葉を遮って微笑みかければ、憮然とした表情で口をつぐむ。それから遊女は晩酌の支度をし始めた。
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