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□一
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04


会話をするでもなく、無言で酒を飲む女を見ながら、憎らしく思う。

女のくせに女を買う?
馬鹿にしているのかと苛立ちが募る。

なぜ柳扇や他の遊女たちがこの女を慕うのか、とんと理解できなかった。

女は男にこそ抱かれてすべて。
その理を無視すること自体理解できぬし、気持ち悪い。

ふと藍色の眼差しがこちらに向いていることに気が付いた。

確かに美しい顔の造形だ。落ちる言葉も低く艶めかしい。これで男でないというのが信じられない。


「いかがなさいましたか?」

「随分と、つまらなさそうだね、佳扇」


当たり前だ。女に酌をして何が楽しいものか。
いっそいってしまおうか――、そう思った矢先、お許しが出る。


「いいたいことがあるのなら、いってごらん」

「……」


女将も柳扇も皆この女を慕っている。それでこんなことをいえば斬られるかもしれない。何せ彼女は真選組なのだ。

しかし生来の気性のため、いわずにはいられなかった。


「女人が女を買うなど、汚らわしゅうございます」


言い放った瞬間、女の笑みが深まった。匂い立つような色香が深まり、切れ長の瞳が妖しく光る。

え、と思うより早く、彼女はかむろに声をかけ、私の身体を無造作に引き寄せた。


「宮、灯を消してお下がり」

「はっはいっ!」

「なっ」


跳ねるようにして座敷を出たかむろを見送ってから、今の状況に気が付いてどくり、と心臓が音を立てた。

抱き寄せられたままの体勢では動くこともできない。何がおかしいのか、彼女はくすりと首筋近くで笑い声を落とす。ぞくりと言い様のない甘い感覚を覚えて、肌があわだった。


「お前は素直で愛らしいね」


いいながら不意に頭を縛り付けていた重みが緩まる。簪を外されたのだと気付いたときには、うなじを唇が這っていた。痺れるような快感に、甘い吐息が漏れそうになったことに戦慄する。

嘘だ、相手は女なのに。


「……っ斎藤、さま、ご冗談は――」


不意にぐいっと後ろを振り向かせられて、近い藍色の眼に溺れそうになる。
女になんて、見えなかった。


「やめないよ」


妖艶に笑う、その薄い唇。
残酷にきっと人を斬り捨てたのだろうその手が、私の帯を緩め、そして快楽へと誘うのを。
止められなかった。

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