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□一
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05


ふと目を覚まし、窓から射し込む光が白いことに気が付いて、思わずため息が漏れた。

放り出していた携帯を手に取ると、土方君と沖田君、それに局長からも連絡が入っていた。無断で朝の連絡を欠席したんだから怒るのも当然か。

隣を見れば、昨夜散々啼かせた佳扇が、白い裸体とところどころに咲いた花を惜し気もなくさらし、眠っていた。
あんなに拒絶していたのに、一度堕ちると純情な彼女はひどく愛らしく見える。

そしてほぼ寝間着が乱れていない自身を見下ろし、苦笑する。柳扇や何度か愛でた遊女たちに、何度も詰られたことだ。

触れさせないこと。

他者を愛でるのに自分に触れさせる必要はない。だから情事が終えても、私だけ寝間着を乱すことはない。

どこにいこうと、私は斎藤壱という男なのだから、乱すことが許せないのだ。

起き上がり、寝間着から昨夜身につけていた着物に着替え、眠る佳扇の額に一度口付け、娼館から出る。
朝だからだろうか、繁華街は沈黙を守っていた。夜の情事など知らぬ顔をする街は、面白い。

やっと屯所について引き戸をあける。欠伸を押し殺しながら座敷に向かう最中で、山崎君に見つかった。


「斎藤さん!!何してたんですか!副長がぶち切れて……」

「おはよう山崎君。また土方君から説教食らうはめになりましたね……」

「副長だけじゃないんですよぉ!!」

「え?」


土方君だけじゃない?
意味がわからないまま山崎君に追い立てられて、おそらく二人が揃っている座敷に向かう。


「いいから早くいってください!!早く早く!」

「え、ええ」


いいながら襖を開けようとした瞬間、先に向こうが開けてくれた。どうせなら仁王立ちする土方君を隠して欲しかったなと思いつつ、笑いかける。


「おはよう、土方君」

「――っ」


あ、やばい。

そう思った瞬間土方君の怒鳴り声が耳を貫いた。至近距離だからこその声量だ。耳が壊れる。


「女食い漁って満足げな顔してんじゃねええぇえ!!!お前今日何話すかわかってたんだろおが!!!」

「つい夢中になってしまいまして……」

「お前二ヶ月夜遊び禁止」

「ええ?そんな、一ヶ月分くらいしか補充してないのに」


思わず嘆けば襟首を掴まれがくがくと揺さ振られた。瞳孔の開き具合がすごいことになってるんだが、注意したほうがいいのだろうか。


「ふ・ざ・け・ん・な・よ?」

「冗談ですって。あまり怒るとマヨネーズじゃ足りないくらい瞳孔拡大してしまいますよ?」

「……斎藤?」

「……すみません」


潔く謝るに限る。ちらっと後ろを見れば、すでに山崎君は逃げ出したあとだった。ずるい。

ずるずると引きずられて座敷に入る。難しい顔をした局長が目に入った。おはようございますと挨拶すれば、きゅっと眉が寄る。


「おはよう、壱。今日ばっかりは朝帰りは感心せんなぁ」

「はい、申し訳ありません」

「俺との違いはどういうことだ……?」

「ゴリはゴリでも局長ですから」

「え?フォローになってないよね?ていうかむしろ俺のこと貶してない?」

「気のせいでは?」


にっこり笑いつつ置いてあった座布団に腰を下ろす。はぁ、とため息をついた土方君は、昨日届いた手紙を取り出した。


「まあ、もうわかってんだろうが、今年もあのお嬢さんの護衛だ。極力総悟には合わせねーように」


毎年この時期になると、上からある高官のお嬢様の護衛が言い付けられる。彼女自体は非常に聡明なのだが、女性的すぎる欠陥が一つ。

恋狂いなのである。

そして去年私と同様にこの任務を与えられた沖田君に、お嬢様はドキュンとハートを射ぬかれた。

以来ストーカーの如く沖田君に手紙を送り続けているらしいが、沖田君も彼女の両親もことごとく無視しているらしく、復讐の鬼になっているわけである。

正直振り回されるのは疲れるが、見ている分には面白い。誰もやりたがらなくなったその任務は、最終的に私のもとへ回ってくることになった。

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