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□一
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06


「今回の護衛は壱だけだ。総悟もやりたがらないし一人で大変かもしれんが、山崎もいるから無理はしないようにな」

「あのお嬢さんだけなら大したことありません。問題は違うところでしょう?」


局長と土方君を見やれば、土方君が億劫そうに頷いた。タバコをさりげない動作で吸う。
紫煙がわずか目に染みた。


「ああ。どうやらこのお嬢さん、知らぬ間に敵方に巻き込まれたみてえだな。ある日を境に総悟への手紙がなくなっただろ?」

「そういえば」

「なんでも他のルートで総悟と文通してると思ってるらしい」

「馬鹿な。沖田君への手紙が届くのはここだけ――……、ああ、なるほど。そういうことですか」


考えれば簡単だ。本人には来ていないはずの手紙と文通する。
つまりなりすましだ。


「その偽者のほうが金やらなんやらを請求し始めた。そこで恋狂いのお嬢さんは貢ぎまくったわけだ」

「それがご両親の目に留まったんですね」


土方君はああ、と鷹揚に頷く。なんとなくムカついたので火のついたタバコを握り潰してやった。


「おまっ」

「煙いのでやめていただきます。肺が腐って動けなくなりますよ」


正論で黙らせる。軽くにらまれたが気にならなかった。


「かえさんは総悟に一度会いたいと言ってるらしいがな、そういうわけにもいかないだろう?」


局長が先を促してくれたので、土方君は渋々といった体で頷いた。


「先方の親は総悟じゃねえってわかっちゃくれたんだ。だからこそ相手を探れと」

「……存外面倒な話に発展してしまったんですね。山崎君がついてくれるのはそれが理由ですか」


山崎君はいつもはあれだが、密偵としての仕事ぶりは目を瞠るものがある。彼を配下にしてくれたのは助かった。


「三番隊の身の振りはどうするおつもりですか?」

「一番隊に半分くらい割いて総悟を見張らせろ。あとはお前が連れてけ」

「見張り?」


なぜ沖田君を見張るのかわからず尋ね返せば、呆れたように返された。


「お前んとこいかねーようにだよ。時期考えればあいつならわかるだろ?」

「ああ」


別に見張らずとも、嫌いなお嬢さんのところへわざわざ出向くような人間じゃないと思うが。

まぁなんでもいい。仕事は仕事だ。


「わかりました。適当に済ませます」

「ああん?」

「……多分完璧に済ませます」


じろじろとその瞳孔が拡大した目玉で睨まないで欲しいものだ。言い直せば一応は溜飲を下げてくれた。


「じゃあ一ヶ月分くらい泊まり掛けの準備をしておいてくれ。昼から挨拶だから遊びに行かないようにな?」


局長の言葉に素直に頷き、部屋を辞した。

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