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□一
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三番隊の隊士たちに連絡しにいこうと稽古場へ向かう途中で、沖田君を見かけた。縁側で例のアイマスクをつけて寝転がっている。
避けて通ろうかとも思ったが、風邪を引かれても困るので起こそうと近寄った。
「沖田君、おはよう。いつまで寝てるつもりですか?」
声をかければ起きてるのかいまいちわからない。
肩を揺さ振ろうと手を伸ばすと、突然その手首が掴まれた。刀を抜きそうになった手を止める。
「……また夜遊びですかィ?」
聞こえる言葉は子供じみて拗ねているように聞こえた。なんとなく可愛い弟のように思いつつ、手首を返し彼の手から逃れる。
沖田君は不満そうにアイマスクを外して起き上がった。
「勿論。こんなところで寝ていると風邪引きますよ」
「自分だけお楽しみかィ」
「おや、興味があるなら今度連れていって差し上げましょうか?筆下ろしのいい機会にもなるでしょうし」
「っだからその話題止めろィ!!」
「あはは」
以外なことに彼はまだ筆下ろしを済ませていない。そういったところへは行くくせに、最後までやらずに帰るのが常だ。
以前なぜかと尋ねたら、興がのらないと答えられた。案外彼は純情なところがあり、そこが幼くて可愛い。
「そうそう、明日から一ヶ月ほど任務で席を外します。三番隊の隊士の半分ほど使ってやってください。あとでリストアップして渡します」
「半分?全員じゃないんですかィ?」
「はい。残りは私の足代わりにしますから」
「ちっ、全員ドMにして返してやろうと思ったのに」
「余計なお世話です。よろしくお願いしますね」
「了解でさァ」
そのまま立ち上がろうとすると、なぜか腕を引かれた。振り返れば、その赤い眼差しがまっすぐに目を貫く。
それは、何かを探ろうとしている目だった。
「その任務、何ですかィ?」
「秘密ですよ。少なくとも君には関係ありません」
「言えねーのかィ?」
「守秘義務がありますから。暇ならば昼まで稽古でぶちのめして差し上げましょうか?」
にっこり笑って放すよう促せば、その赤い瞳が一瞬一際強い光を放った。平然とそれに対峙し、顔色一つ変えることはない。
いつまでも子供のお遊びを楽しむわけにはいかないのだ。沖田君のような子供にはまだ早い。
そんな思いが伝わったのか、彼は私の腕を放しながら失望をにじませてつぶやいた。
「やっぱり、ガキ扱いなんですねィ」
驚いたのは、事実だ。
私の中で彼は大事な親友の可愛い弟でしかないし、それは局長や土方君だってそうだろう。
でも年齢を考えれば、そういう思いを抱くのも当然のことなのかもしれない。
やはりガキ扱いしていることに気付かないまま、私は唇に淡い笑みを乗せて、弟分の頭をくしゃりと撫でてやった。
「私から一試合で三本とれたら子供扱いはやめてあげますよ。できるなら」
「いったな?」
赤い眼がきらりと闘志により輝いた。それを面白可笑しく眺めながら、私は挑発するように唇の端を吊り上げて笑った。
「ええ。では稽古場に行きましょうか」
その後、昼までの短い時間で、しゃかりきになった沖田君をぼこぼこにぶちのめしたのはいうまでもない。
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