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□一
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沖田君のところへ送る隊士のリストアップをし、渡しにいったり、一ヶ月分の荷物を適当に身繕い、今できるだけの仕事をしているうちに、夜が更けていった。風呂に入りそびれそうになったのは危なかったが、女中が栓を抜く寸前で止めることができた。

そして翌朝。数人の隊士と共に車に乗り込み、お嬢さんの住まう館へと向かう。

山崎君はすでに出立しており、切手に関する手紙が残されていた。車の中で目を通しながら地図で場所を確認する。


「自宅から20q圏内か……。清水、山根、毛利、少し手間かもしれないが、周囲の勢力の確認を頼むよ」

「了解です」


発展した話ではあるが、案外簡単に済む話かもしれない。下らないなりすましを考えた人間はとことん浅はかのようだ。

――いや、油断を誘っているだけか?

しばらく考え込んでいるうちに車が止まる。運転してくれた清水に礼をいいつつ、外に出、館の中に入った。

去年一昨年と変わらないとんでもない成金趣味だ。ごてごてした飾りを見てみぬふりをして、女中に案内されるまま客間へ向かう。しかし襖を金色に塗り立てるなんて悪趣味そのものだ。

本人たちはなかなかいい趣味をしてるのに、どうして住まいだけこうなんだろう。センスを疑わざるおえない。

襖をあけて中に入れば、すでに山崎君が両親とかえさんと会話していた。会釈しながら入室する。両親が立ち上がり深々と挨拶してきた。


「おおこれはこれは斎藤さん。毎年ご迷惑おかけします」

「いえ、お嬢様にお会いできるのは楽しいですから」

「口ばかり上手いんだから壱さんってば」


ころころと笑いながら口を開いたのはかえだった。確か今年で十八。そろそろ縁談やらが舞い込む時期だろう。ますますご両親の過保護のグレードが上がるわけだ。

縁談なんぞなくとも、もし事件に巻き込まれているなら過保護にならざるえないが。


「口先だけではないと証明して差し上げましょうか?」

「斎藤さん」

「冗談ですよ。今年もどうぞよろしくお願いしますね、かえ様」

「もちろんよ。沖田さんの話も聞きたいし」

「……」


どうして会いに来ないか、とかだろう。恋狂いのお嬢様はいつにも増して常識をはねのけるから面倒極まりない。

山崎君と目配せしあい、小さなため息をこぼした。

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