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□二
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01



涙を流しながら、ゆらりと現れた彩りに息が止まった。
触れた頬は、まるでガキみたいに小さくて。
閉じた瞼から、花の雫のようにこぼれた涙が切なくて。
震える密やかな息が、紡ぐ、その言葉に。
どうしてだろう、何かが胸を込み上げた。泣いて欲しくなくて、いっそのことお前のその口を。

塞いでしまいたいと、思った。



「斎藤がお見合いィイ?」


すっとんきょうな声を跳ね上げてザキの肩を揺さ振れば、気持ち悪そうな声をあげたので即座に手を離す。


「吐くなら自分にぶっかけてくだせェ」

「ひっど!!何それひど!!」

「んで?何ですかィそのいかにもパチっぽい話」


俺と山崎は今屯所の中の奥のほうにある、便所の前で話していた。すぐ近くには近藤さんの部屋がある。一般隊士は立ち入り禁止されている箇所だ。

ゲロ崎の話はどうでもいい。先をいうよう促せば渋々といった調子で山崎は、声を潜めて話しだした。


「一月のときのお嬢様いたでしょう?舞岡かえさん。彼女のお姉さん、かよさんっていうのが、裏ではそこそこ名の知れた情報屋なんですよ。かなり高額なんですが情報の質は高いとかで」

「情報屋ならなおのこと真選組と組む理由がないだろィ」

「いえ、情報屋ならではなんですが、彼らもまた狙われやすいんですよ。平気で人の恨みを買いますから」


「つまり真選組を隠れ蓑にするってェことですかィ?」

「隠れ蓑、というより、斎藤さんっていう大きな盾が欲しいみたいです。しかもとんでもない話なんですが、斎藤さんを真選組に関する情報源にするつもりらしいんですよ」

「はァ?」


声を潜めた山崎の言葉の意味がわからず顔をしかめる。


「どーいうことでィ。あいつ自分から狩られるようなタマか?」

「そうじゃなくて……。かよさんと既に話はついているらしいんですが、聞いた話によると、お互いを情報源として使うってことらしいんです。斎藤さんは少ない情報を流すことと、かよさんの護衛、かよさんは持っている情報をすべてさらす、っていう」

「……どこのスミス夫妻でィ。スリルありすぎでさァ」


思わず呻く。普通の神経じゃねえ。
山崎も同じことを考えていたのか顔を歪めた。


「そもそも斎藤さん自体問題があるじゃないですか。もし彼自身の情報が漏れたら終わりなのに……」


婉曲に言葉を表すが内容は単純かつ一大事だ。あいつが作り上げてきたものすべてが一瞬で失われる。


「ていうかその件はどーなってるんでィ」

「かよさんはご存知です。いざ後継ぎ問題が起きたら養子をとるか、かえさんのほうに話は流れるみたいですね」


もやもやとする。何がこんなに胸につっかえるのかはいまいちわからなかったが、ただわかるのは。


「……気に食わねェ」

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