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□二
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お見合いをする場所は、真選組の警備が敷かれていた。座敷周辺は、私の性別を知っている数人しかおらず、閑散としている。中に私と局長、土方君がいるからこその少数精鋭だった。

局長が贈ってくれた着物は、シンプルながらも大層質がよく上品な濃紺だった。気に入りの色に口元も綻ぶ。


「しかし、おせぇな」

「仕方ありませんよ。女性は化粧に時間がかかるもの。土方君は急きすぎです」

「壱がいうと深いよなぁトシ?」

「……まあな」


先についてしまった私たちは座敷内を点検したのち、のんびりと茶をすすっていた。今までにないほど穏やかだ。
警備に沖田君は組み込まれていない。土方君が外した。

この形式ばかりのお見合いに、彼が納得するはずもない。彼にはわからない。それは彼が子供だからではなくて。

ふ、と笑みがこぼれる。暗い世界の住人同士、食い合うところに身を落とすのは愉しそうだ。朗らかな気持ちさえ抱く。


「失礼します」


付き添いの者の声だろうか、男の声がして、局長と土方君は姿勢を正した。黙って襖を見つめれば、開いて真っ先に目に入る、鮮やかな衣、妖艶な瞳。


「こんにちは、壱さん」

「ああ、こんにちはかよ様」


やはり彼女は美しい。明るい世界にはいられない私と、同じ香りが衣から匂い立つ。

付き添いの二人を見やれば、あの桃色の髪の男と、以前かえ宅で両親に連れ添っていた中年の男だった。後者については一切気にしない。問題は、神楽に似た男のほうだ。にこやかな笑みが胡散臭い。

それは、私も一緒か。

局長が三人に座るよう促し、かよと向かい合う。

彼女は柔らかな栗色の髪が映える、朱色の衣を身に纏っていた。蝶と桜が舞い散り、穏やかな藍色のショールが包んでいた。そう、彼女は夜の色のほうが合うだろう。

いまさら紹介も何もないが、会話を交わらせる。その間中私の警戒はあの男にのみ向けられていたとしても許して欲しい。かよの愉しそうな笑みが何かを知らせてくれていた。本当に、愉快な女だ。

改めて話すことなどない。報酬は今払うのだし。


「まぁあとはお二人の意志でしょうな。な、壱?」

「ええ。別にいうまでもないことでしょうが」

「そうはいっても言葉が欲しいねえ。――頂戴な、壱さん?」


甘いおねだりの声と、賢い女の目が私の瞳を捕える。苦笑を一つこぼし、がらりと色を変えて、美麗な笑みを口元に乗せていった。


「あなたが欲しい、かよ。
私のものになっていただくよ」

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