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□二
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それから数日後、あの女がやってきた。
興味津々で覗きに来ていた隊士たちの奥から見れば、女を守るようにして立つあいつが目に入る。ほのかに浮かんだ笑みは優しくて哀しくて。
苛立ちが募った。
苛立つ必要などないはずなのに。あいつが男として生きることを望んで、今それが叶おうとしてるのに。
女がこちらに気が付いた。それを斎藤にいうでもなく、彼女の肘に手を絡め行こうと促す。冷やかしすらも二人は超然と受け流していた。
簡単な話だ。
暗い夜の妖艶な瞳が俺を捕らえ、挑発的な笑みを刻む。舌打ちしその場から離れながら、純粋に思ったことは。
俺はあいつを手放したくないということ。
手放したくない、どころじゃない。誰かのものになるのが嫌だ。
「これが姉に対する感情かィ」
少なくとも姉上にはこんな感情抱かなかった。土方の野郎は嫌いだしあいつに姉上をとられるようで悔しかったけどでも。姉上が幸せなら、よかった。
でも違う。この感情は明らかに違う。
あの幸せそうな笑みを向ける対象が、
どうして俺じゃないんだ、なんて。
思ってしまったんだ。
それから折に触れ視界に入る二人は、心底互いを慈しんでいるように映った。斎藤が用事があるときはあの女は斎藤の部屋から動かず、情報を探っているようには見えない。
斎藤も斎藤で、彼女への扱いは誰よりも優しく、下心を持って女に近寄ろうものなら問答無用で斬らんとばかりに過保護である。
バカップルというほどいちゃこらしてるわけでもなく、大人の付き合いにしか見えぬ二人には、ガキの俺にはわからない花が咲いているように映った。
早咲きの桜を見て、実に自然に肩を抱いた斎藤と、穏やかに身を預けたあの女は、愛しい恋人たちだった。
儚いほど、綺麗な。
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