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□二
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くるりと振り向かされ下りてくる顔面に、盛大なアッパーを加えてやった。美男子でもキス顔はきもいな。


「グファッ!!!!!!」

「何を一人で自己完結しているんです?挙げ句の果てには口付けですか、随分気持ちの悪い男に成り果てたものですね」

「てめえ…………」


幸いその顔で凄まれても怖くない。伸びてくる手をはたいて落とし、赤い瞳をまっすぐに見て、ため息をこぼす。


「今まで抱いてきた覚悟が、ぐちゃぐちゃですよ、君のせいで」

「止めればいいじゃねーかィそんなもん」

「……そう簡単に、割り切れるものではありませんよ。行きましょう、待たせています」

「行くってどこにでィ」

「座敷に。謝罪はしなければ」


伸びてきた手に今度こそ腕を掴まれた。強い光のこもった目が私を焼く。


「あんたが謝ることじゃねーだろィ」

「そうですね、むしろごちゃごちゃにしやがった君が土下座して謝罪するべきでしょう」

「……」


手が静かに離れていった。偉い偉い。


「保留にしてもらうために、ですよ」

「は?」


くす、と笑みをこぼせば、沖田君は眉をひそめた。


「ちゃんと、考える時間をもらいます」



襖を開けて中に入る。みんな一様に怖い顔をしていた。それもまぁ俺のせいなんだけど。

じろりと土方に睨まれる。


「反省はできたのかよ?」

「俺が反省することはなんもありやせん」

「お前っ――!!」


刀に手を伸ばした土方を止めたのは斎藤だった。手で制した彼女は、上座に座るあの女を静かに見やる。


「土方君抑えてください。聞いてもらいたいことがあります、かよ様」

「……もう、かよとは呼んでくれないのねえ」

「――え」


その、すべてを知っているかの口調に斎藤が凍り付いた。女の目が斎藤を越えて俺を射ぬく。苛立ちと、怒りのこもった切なく暗い眼。


「覚悟が、できてるんだろうねえ?」

「――っ」

「かよ様、あの……」


当惑する斎藤の前で、女はゆらりと立ち上がり、すたすたと彼女に近づいた。そして皆が目を見張る中、斎藤の唇を乱暴に奪う。一瞬頭が真っ白になった。

斎藤は抵抗も抱き締めることもしなかった。ただ腕をぶらりと下げたまま、女の口付けを受けていた。


「は――」


女がゆっくりと離れる。斎藤の唇は、かすかに潤い艶やかに輝いていた。じわりと熱を持つ身体。


「――っかよ!!なんてはしたない真似をしているの!!」

「愛情表現だよ。ねえ、壱さん。知っているはずだよねえ、私の想いを」


母親の声に冷たいそれで切り捨て、そっと、斎藤の腕に手を伸ばす。わずかに見える瞳から、何かがこぼれ落ちていった。


「かよ様」

「嫌がらせさ。振られた女のたんなるねえ」


誰に対してかは、向けられる視線などなくともわかる。

彼女はその柔らかい髪をなびかせ、すっと歩きだした。


「かよ!」

「次の機会まで待つよ、壱さん。私はきっといつまでもあんたを想ってる」


すれ違う刹那、落ちた言葉は。


「――」

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