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□二
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後日ゴタゴタを丸く納めるために、当事者である斎藤と土方が奔走していた。それを他人事そのものに眺めつつ、屯所内土方と並んで女を落とすことに無敗を誇った斎藤の、まさかの一敗に騒ぐ隊士の話を聞いた。
彼女の対面のため、斎藤が縁談をその場で断られたというものになっていた。
その際のあいつの気持ちは、誰も気にしない。あいつはそういうやつだ。女に優しく男に厳しく、そして自分には何よりも厳しく。
まるで自分を嫌っているんじゃないかとさえ思えるほど。
「――はっ」
関係ない。あいつが自分に死ぬほど厳しいなら、俺があいつに嫌になるほど甘くしてやればいい。それだけのことだ。
お猪口に薄い桜色の酒を注ぎ、それを一口含む。あのとき杯に注がれていたものを斎藤が買ってきたやつらしい。あいつが来るのを待たずに、本人の部屋の縁側で開ける。
覚悟ができているのかと聞いたあの女。
夜も深まりだした空の中、どこかから薄桜が舞い散った。それにお猪口を傾けながら、笑う。
「当たり前だろィ」
斎藤はあの女のものじゃあない。俺の、俺だけの。
覚悟よりも何よりも、俺が求めるのは――……。
襖が開く音がして、振り返れば呆れた様子の斎藤が立っていた。酒を盗ったことが問題らしい。まぁいーじゃないですかィと笑い、座るよう促す。
仕事終わりの一杯を、自身のお猪口に注ごうとする奴の手を引く。不思議そうに向けられた藍色の瞳に、どうしようもないほどの恋情を憶えた。
引き寄せて出来る限り優しく、唇に口付けを落とす。抵抗されないような、子供らしい無邪気さを装って。無論そんな小細工は、百戦錬磨のこの女色野郎には通用しない。
でも、わからせればいい。俺がお前をどう想ってるか。どれほど欲しいと望んでいるか。
乱暴に引き離されるが、彼女は明らかに動揺していた。頬はわずかに紅潮し、薄く開いた唇は桃のように潤って。
そう、わからせればいい。
こいつが女であることを認めたんだから、俺も自分には正直になろう。
「沖田君……、何ですか今のは」
「愛情表現でさァ」
「……何馬鹿なことを」
「わかったくせに」
にやりと笑って舌舐めずりすれば、うっすらと頬を染めて顔を背けた。にやにやと笑ってしまう。
こほんと咳をして、斎藤はそういえばと無理やり話を変えた。
「どうして止めようと思ったんですか?」
こくりと酒を飲み込む。横目で見やれば藍色の眼と合致した。
「ああそれかィ。簡単なことでさァ」
「お見合いなんてもんは、あんたにゃ似合わないからでィ」
すれ違う瞬間あの女が吐いた言葉は。
『あんたにはねえ、負けないよ』
上等でィ。
落としてやろうじゃないか、この野郎。
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