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□二
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かよのお店は二層式だ。外側は実家の仕事を継ぎ事務所になっているが、中に入り手続きをとれば主人のいる奥へと通される。そこには大抵数人柄の悪いのが転がっているのが常だ。誰も彼らを咎めない。
「ここ、事務所じゃねーかィ」
「そういえば君はかよさんのところにいったことがないんでしたね。大丈夫、入ればわかります」
戸惑う沖田君を連れて店内に入る。受付にいた女はすでに顔見知りになっていたため、一瞬目を見開いたあと、行くよう促した。
キョロキョロしている沖田君をつかんで、会釈しつつ奥へと進む。突き当たりの角を曲がり、一見扉に見えぬ壁を押し、階段を上っていく。上からゆっくりと流れてくる甘い香に、沖田君は何か感付いたようだが言葉を口にしなかった。賢明な判断だ。
しゃらしゃらと音を立てる暖簾をくぐれば、真っ先に目に入る煙管をふかす若い女の姿。私を見ると彼女は妖艶に笑った。
「よく似合ってるねえ、壱さん?」
「嫌みですか、かよ様」
苦笑しながら沖田君を振り返り、刀の柄に伸ばしていた手を止めさせる。目が一瞬交差し、不服そうにその手を下ろした。
中に入れば椅子の上で寝込けていた男共が、ちらりとこちらに視線を寄越す。わかりやすすぎるな。
唯一微動だにしなかったのは、右手側のソファーに寝っ転がっていた桃色の髪の男くらいだろうか。一瞬違和感を覚えるが気にしないことにする。
「それで、そっちの子はうちの妹のあれかな」
「ええ」
「妹にしちゃあ馬鹿だねえ。こんな目してるんじゃ早死にするのがおちだよ」
かよの馬鹿にした口調に、沖田君が目を鋭くさせる。彼の前に立ってかよに笑う。
「あまり怒らせないでください。手間がかかるんだ」
「ふふっ冗談だよガキ。それでわざわざ振袖まで着て用件はなにかな?」
「わかっているでしょう。この間お頼みした件です」
「結果を急かれると逃げたくなるねえ」
くつくつと笑う。柔らかいウェーブがかった栗色の髪と、その白い顔は一見すれば天使のように愛らしい。
しかし彼女の特徴はなんといっても、不釣り合いな黒縁メガネの奥の、妖艶な瞳。
蠱惑的な眼の中に潜むのは、数多の知識を食い付くそうとする肉食獣だ。かえとは全く違う闇の住人。
美しいと思う。確かに彼女を手に入れたら、私は幸せだろう。しかしおそらくたどり着く先は。
狂気。
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