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□二
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手を伸ばし、少女のように小さな頬をそっと撫でる。その瞳が薄く細まった。背後の男共が殺気立つ。
「教えて、いただきましょう」
「………これだから、あんたを相手にするのは骨が折れるんだよねえ」
呆れたように彼女は眼をぐるりと回し、机の中から紙の束を取り出した。無造作にそれを机の上に放る。
それを見て男共は皆何事もなかったかのように眠り始めた。沖田君と、そしておそらく桃色の髪の男の視線を感じる。
「これがものだよ。読み終わったら火にくべてくれ。さて、と。報酬はどうするつもりかな」
「何をお望みでしょう?」
「わかってるくせに。やな女だねえ。……あの日の返事、楽しみにしてるよ」
「もちろんです。それではまたお会いしましょう」
彼女の髪を一房手に取り口付ける。返事の代わりにいただいたのは、煙管から吐いた甘い煙だった。
沖田君を連れてその屋敷を出た。外が見えるはずの窓も、強情にブラインドを締め切っていたため、光が鋭く目を焼いた。さほど時間は経っていないかと思ったが、そんなことはないらしい。もう夕暮れになっていた。
「あの、女がそうなんですかィ」
「そうですよ。大層いい性格しているでしょう?」
「とんでもねェな。あいつも、おめえも」
低い声に疑問を抱き、振り返る。彼は眉間に皺を寄せて、ひどく不機嫌そうな顔立ちをしていた。
「狐同士の化かし合いっつうことですかィ」
「そう、なるんでしょうね」
「行き着く先なんざ見えてるだろうに殊勝なこって」
「見えるも何も、共食いしか道はありません。私も彼女も、根本は同じ。食い食われ、最後には」
「止めろ」
いきなり腕をつかまれぐい、と引かれる。よろけることはなかったが、距離は近くなった。冷めた意識のまま彼を見上げれば、赤い視線が貫いた。
「面白くもねェ話すんな。胸糞悪ィ」
「……これは、失礼。それではお詫びにどこかでお茶でもしましょうか?」
「斎藤の奢りでねィ」
「嫌ですよ」
「ちっ」
機嫌も治ったようで少し安堵する。それもまた子供扱いに含まれるのだろうか?
「そういえば今日取引したあれ、何ですかィ?」
「企業秘密ですのでお答えできません」
「同じ企業だろィ。見せろや」
「極秘事項ですのでお答えしかねます」
「てめェ喧嘩売ってんだろ」
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