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□二
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かよのもとに訪れてから一週間。明後日にはお見合いだ。気が重いわけではないが、なんとなく気分が上がらない。

人を陰と陽にわけるなら、私はかよと同じく陰だろう。そして神楽と、――ミツバは陽。

ため息をつく。わかっていた、彼女を思い出していたこと。前進する気配もない自分に呆れてしまう。


「これじゃあ沖田君に怒られるな……」


自分だけずるずるずるずるいつまでも、引きずって。これも女だから?違うだろう。私の弱さだ。

仕事も一段落し、のんびりお茶を飲みつつこの間の資料を確認する。今はこれで頭をいっぱいにしよう。

この間のかえの事件。彼女に偽沖田君の文通ルートを教えたという、黒い着物で左頬に傷がある男が捕まらなかった。あの事件の発端でもあるはずなのだが、見事に行方をくらませた。

既に終わった事件として一応皆が溜飲を下げたが、土方君と私はどうしても違和感を覚えていた。そこでまだ彼よりも自由に動ける私に白羽の矢が立ったわけだ。

そもそもなぜ私が友近たちを本拠地に向かわせたことに気が付いたのだろう。あの話は山崎君と友近あたりしか知らないはず。あの黒服の男に入る余地はない。

裏で誰かが手を引いている? いや、それとも密通者か? 怪しいといえば誰もが怪しい。あの会話をしたとき部屋には私と山崎君しかいないはずだ。

山崎君が裏切るはずがない。彼は私を裏切る一番強い情報を握っているが、それが漏洩した様子はない。

ならば三番隊の隊士か。以前の動乱時にも伊東派を撹乱させるために入れさせた馬鹿共が、相手の罠にまんまとはまっていた。私同様皆腹に一物蓄えている奴らしかいない。

部下を疑うのは少々胸が痛むが仕方ない。そこから探るのが妥当だろう。

いざ決めれば行動は早めに起こすか、と思い至る。山積みになった机をちら、と見、仕方なくそちらに戻った。仕事はなかなか進まない。

そういえば、風太というあの少年が口にした特徴で、すぐにあの男だとわれたが、私はどうしてあの男の顔を覚えているのだろう。脳裏に浮かぶイメージは、写真で見た、にしてはあまりにもリアルだ。生きている実物と、私は会ったことがある――?

私だけが覚えている。ならそれは局長の道場にいた頃の話ではなく、そのあとの四年間。悪夢の日々のどれか、ということか。

思い出したくない、日々。


「あ」


そう思った瞬間、視界が歪む。ぐらり、と倒れそうになるのを机にしがみついて防ぐ。代わりにばさばさと書類が落ちてしまった。あーあ、とため息をついて身を起こそうとするが力が入らない。

そしてタイミング悪く――。


「壱ー入るぞ、――っ壱!?大丈夫か!?」


局長が入ってきた。

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