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□三
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「っ――、どういう、つもりです」
「今のでわかんねェふりするんですかィ?」
彼はにやりと口角を吊り上げて笑う。その赤の蠱惑的な瞳と、挑戦的な眼差しに頬が熱くなる。
どうにか逃げ出そうと身を捩れば、ぐいと乱暴に両手を掴まれた。腹を蹴り飛ばそうと足をあげれば、片足をねじ込まれて顔が歪んだ。
「おきっ――たくん!!――んっ」
叫んだ唇をぺろりと舐められ、甘い声が漏れた。その近すぎる距離で、彼は静かに囁く。
「静かにしろィ。聞かれたいんですかィ?」
「……っな何馬鹿なことを」
聞かれでもしたら終わる。いやどうせ死ぬなら構わないがだがこのガキにこんな風にされているというのを知られるのは、とてつもなく不愉快だ。
反抗的な眼差しを向ければ、やはり少年はにやにやとふざけた笑みを浮かべていた。
「そういう反抗的な態度とられると、無性に虐めてやりたくなるねィ。誘ってんですかィ?」
「冗談はよしてくださいよ、何が楽しくて二つ年下のガキに欲情されなきゃならないんです?」
「ガキ扱いしねーつったのはてめーだろィ?守れよ」
「それとこれとは話が別でしょ、――って何やってるんですか!」
するりと脚を覆う浴衣を撫でた彼は、ためらいもなくそれの下に手を入れた。つまり私の素肌に触れていき、向かう先は柔肌で。
遊女を自身が愛でるときと全く反対のこの現状に、焦りを覚えないわけがない。そも、他者に触れさせないのは私がこういったことを好まないからで。
矛盾しているようでしていない。持論だからこその自由だ。
……じゃなくて!!
「いい加減にしてください、沖田君。話が変わっています。というより髪切ってくださらないんですか?」
「ったりめーだろィ。他の奴のために髪切るなんざ許さねェ。例え姉上だろうとも、それだけは許しやせん」
「――え?」
このシスコン坊やが、ミツバを許さない?
意識して考えないようにしていたことが、じわりと脳に浮かび上がり、私は思わず抵抗を弱めていた。
それに気付いた彼は、手を止めて、改めて眼差しが相対する。
そこに浮かぶのは――、そんな、まさか。
降りてきた口付けを拒否することもできぬまま、私はその優しいキスに溺れる。呼吸が続かなくなるまで想いの籠もったそれを受け、吐息混じりに彼が耳元で囁いた言葉は。
「好きでィ」
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