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□三
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「――っな、なに馬鹿なことをいってるんです沖田君。さっきもいったでしょう、私はミツバが好きで……」
「失恋したから切るんだろィ。だったら俺のために伸ばしてくれよ」
手が降りてきて反射的に目を瞑れば、鼻で笑う音と同時に髪を柔らかな仕草で撫でられた。慣れないその感じにびくっと肩が震える。
頭は小さな頃は父上に、少し大きくなると局長に、撫でてもらったことがある。でも、髪はない。こんな風に撫でられたことはない。
「あの鬼畜隊長がこんなびくびくしてるとこなんて、誰も見たことないんでしょーねィ」
馬鹿にしたような口調にいらっとする。むっとしながら睨み付け、乱暴にその手を止めさせようと払う。が、それもあっさりと拘束された。
「優越感浸っているところ申し訳ありませんが、私が弱っているところなんて山崎君は見尽くしてますよ」
「安心してくだせェ、おめーが俺のもんになったら山崎は斬りやす。んで代わりに俺が手当てしやす」
「はっ嫌です。そもそも君のものになんざなるわけがないでしょう。君のものになるくらいなら、かよに飼われたほうがマシです」
なぜかびしりと彼は凍り付いたが、こんな絶好のチャンスを逃がすわけにはいかない。
私は勢いよく足を跳ね上げて、乱暴に彼の身体ごと半回転させ、そのまま沖田君を拘束した。手近にあった手錠で彼の両腕を捕える。とりあえず一安心だ。
「ってめェ覚えてろィ壱……!!」
「わー沖田君手錠お似合いですよ写メって差し上げましょうか?ほらはいチー」
ズをいう前にがっと足で携帯を蹴り飛ばされて天井に穴が開いた。二人揃って絶対零度の視線を送り合う。殺意剥き出しだ。
やはり、私と彼はこのぐらいがちょうどいい。
あんな妖艶なやりとりなど、私がやりたいときに遊女とやればいいだけだ。彼には似合うはずもない。
緩んだ帯を締め直すために、沖田君に背を向け、一度帯を解く。強い舌打ちの音など知らない。
「どんな嫌がらせでィ……。生殺しもいいとこですぜ」
「君にヤられてあげるほど、私はお人好しではありませんから」
「感じてたくせによく言うねィ」
「君、一回吊されなければわからないんですか?」
なんつうことをいうんだこのガキ。
純度百%の殺意を向け、帯を締めようとすれば、突然くいっと後ろに引かれた。まったくの予備動作のない動きにつんのめり、後ろに倒れこむ。その瞬間、かちゃり、といやぁな音が響いた。
肩に沖田君の顔が乗って、黒い笑みが視界に入る。こいつ馬鹿じゃないだろうか。
「誰がこれ外すんですか……」
「土方さんに頼めばいーじゃないですかィ。あ、やっぱりここはザキかねィ」
「愉しそうなところ申し訳ありませんが、ここから土方君や山崎君にどうやって知らせるっていうんです。君の頭はノミ以下ですか」
第一山崎君ならいざ知らず、土方君はこの状況を見たらあろうことか私ごと沖田君を斬るだろう。それだけは避けたい。そもそも私のせいではない。
私の、帯を締めるために背中に回された両手は、沖田君がどこかから出した手錠によって捕われていた。
いちいち腹が立つ。沖田君の死因は刺殺間違いなしだ。私が保障する。なぜなら犯人は私だから。
がちゃがちゃと藻掻いては見るものの、とれる気配はない。もちろん沖田君も。いらないセットだ。
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