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□三
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代わりに動いたせいで緩くなっていた浴衣が、ずるりと肩から落ちそうになる。あわてて戻そうとしても、ずりずりと下げるやつがいちゃ間に合うわけがないだろう。肩が剥き出しだ。
「……どこまで飢えてるんですか君は」
「今すぐてめーの首に噛み付きてえくらいですかねィ」
「私は今すぐ君を斬って差し上げたいです。しかも暑いですし」
雨は降っているものの、七月だ。さっきのも含め、私も沖田君も熱気を発し、部屋はむわりと暑かった。火照りを冷ましたくとも長い髪はそのまま背を覆っているし、セットで沖田君もくっついてるし、たまったもんじゃない。
「熱いんなら好都合でィ。自慰でもやってくだせェ」
「君が一人で好きなだけ抜けばいいでしょう、巻き込まないでください」
「へえ……?俺がここでやっていいんですかィ?」
まさかの乗り気に引きそうになるが、不意に腰に触れた熱いものに合点がいく。こいつ……!!
「沖田君止めましょうねそれは無しですよ?わかってますよね?」
「おねだりするなら考えてやらんこともねーなァ。どうしやす?」
殺意がふつふつと煮えたぎる。ごめんミツバ、君の弟殺すのは私かもしれない。
「……おねだりってどんな風にですか……」
「殺意しかこもってない声ですねィ。とりあえずやってみてくだせェ」
やり損になるのが目に見えている。口をつぐめば、首筋を何かが噛み付いた。密着度合いが尋常じゃないことになっている。
熱を孕んだ舌に舐められ、弱い声を漏らせば、動きが止まった。
そのままくいっと顔を肩に押しつけられる。小さな声が呟いた。
「てめーは女だろィ。だったら守られるようなやつでいてくだせェ」
「……」
いつもああだからこそのこの弱い言葉には弱いのだ。私は苦笑をもらして問う。
「いまさらそんな風に生きるつもりはありませんよ。私は今まで通り、人を斬る」
「斬るのをやめろなんていうつもりはねえよ。死のうとするなっていってるんでィ」
「……死のうとは、思ってません。安心してください沖田君。少なくとも」
小さく振り返り、柔らかに微笑む。一切の不安などないように。超然と、悠然と、平然と。
笑った。
「あの男を殺すまでは、死にません」
どうせ、あと少しなんだから。
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