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□三
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それから沖田君を適当に黙らせつつ、誰かが来るのを待っていた。その途中で何度寝そうになったことか。
さすがに狼になってる沖田君に、身を預けて眠るような馬鹿な真似はしなかったが。昨日一昨日と斬ったはったの展開で、身体も精神も大分疲れていたのに、まだ寝れないというのはかなり苦痛だった。
下らない馬鹿話をしてどうにかこうにか時間を過ごす。
途中でねだられて仕方なく小さい頃歌ってやった子守唄を聞かせれば、不意に背中の重みが増した。子どものようにことりと寝入ってしまったようだ。そんなところはひどく他愛なく映る。
暗い外をぼんやりと眺めながら、ゆるゆるとまとまりのない思考を収束させる。
本来なら沖田君には話さずに終わっていた四年間のこと。どうして私は応えてしまったのだろう、彼が引き止めるとわかっていたはずなのに。
引き止めて、欲しかった――?
自分で思いついた考えに苦笑をもらし、首を振る。それはあり得ない。そんなひどい責任転嫁など私は望まない。
もしも沖田君が私を引き止めれば、奴は確実に真選組に仇なする。敵対している攘夷浪士に力を貸すだろう。そんな迷惑をかけるために私は真選組に戻ったわけじゃない。
奴も奴だ。あんな、五年も前のことに縛られて、抜け出せないなど愚かの極みだろう。もうきっと一人きりになってしまったというのに、私のことなど忘れてしまえばいいものを。
それもまた、自身が既に復讐が済んでいるからこその言葉だろう。皮肉なものだ、と小さな笑いをこぼす。
背中に触れる温もりを感じながら、考える。これまでのこと、これからのこと。
悩むまでもないけれど。
空がじわりと白んできた頃、遠慮がちに襖を叩く音がした。
「失礼します、斎藤さん入りますよー……」
すーっとひいて入ってきた山崎君は、さらしを剥き出しにしている私と、背中にくっついている沖田君を見て凍り付いた。言葉も出ないといわんばかりの表情だ。
「鍵がそこにあります。外していただけますか?」
促せばこくこくとうなずいて従順に従ってくれた。さすがは山崎君、賢い賢い。
ようやく解放されのびをしながら、乱れた衣服を整える。山崎君が沖田君の手錠まで外しそうになっていたので制止し、足にも手錠をつけ、包帯で口も巻いておいた。できあがった異物を外に蹴りだして置く。もちろん写メするのは忘れない。
「あ、あの……、斎藤、さん……」
「山崎君、彼はただの異物ですよ、お気になさらず」
にっこり笑っていえばがくがくと首を縦に降って肯定した。それから、と言葉を続ける。
「頼みたいことがあります。土方君に、これを渡してください」
昨日したためていた手紙を渡す。困惑の混じった表情に、微笑みながら、感謝の言葉を述べた。
「今まで、ありがとう、山崎君」
「私はここを出ます」
「つきましては、髪を、切っていただけませんか?」
君のために、伸ばす髪なんて。
ないよ。
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