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□三
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その日は私の十二歳の誕生日でした。
相変わらず昼頃まで局長の道場にお邪魔して、ミツバも君も、土方君も局長も、一緒にお祝いしてくれましたよね。嬉しかった。
でも、そう、その日の終わりに事がおきたんです。
沖田君は、私の父の遺体を見ましたか?
――見ていない、ならよかった。
子供が見るにはあまりにもえげつないものでしたから。
夕刻家に帰った私は、真っ先に異臭に気付きました。本来ならするはずのない匂いです。当時の私には怪我をしたとき以外縁のない匂いですね。
胸糞悪くなるような、濃厚な血の匂い。家の中に入る前からすでにそれは外へ漏れだしていました。それは、シロが首を刎ねられて死んでいたからでしょうけど。
もうそのときに、きっと私の理性は飛んでいたのでしょう。私は怯えながら家の中に入りました。
玄関からして、すでにそこは血の海でした。いつも私を出迎えてくれたじいやと、ときどき世話をしてくださっていたねえやがやはり首を斬られて死んでいました。私を出迎えるようにして、玄関に顔を二つ揃えて並べてありました。
身体はありません。首だけ。
そのとき悲鳴を上げなかった私は、代わりに父のもとへ駆けました。沖田君も知っているでしょう?大病を患っていたあの冷厳な父です。
あの二人の死体を見て、私はすぐに父の部屋に向かいました。何も、考えていませんでした。
ただ、元軍人の父が死ぬはずがないと、思っていました。
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