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襖を開けようとして、中から響く音に気が付きました。ごりごりと、まるで何か固いものを切断しているかのような、嫌な音です。それは一つだけでなく、二つ、三つ聞こえてきました。
父の寝室は襖に仕切られた真ん中。それを四方から取り囲む部屋のうち、一つのその前で、私は凍り付いていました。見てもいないのに、安易に想像はできるものです。
私が想像したのは、父やじいや、ねえやの死体を切り刻んでいるところでした。もちろん肉だけでなく骨さえも。
そのとき私はようやく我に帰りました。足元を見て、悲鳴を上げた覚えがあります。私の履いていたわらじが、真っ赤に染まっていましたから。
ごりごりと、響いていた音が消えて、中から鋸を持った男たちが出てきました。私の視界には、そいつらではなく、部屋の奥のほうで横たわっている父の姿しか映らなかった。父の、そのすぐ脇の、家宝である刀とともに。
男共から擦り抜けて、私は刀を取りました。そのとき見た情景は、今も忘れられません。
父は、中身を抉りだされても、生きていた。
懇願するような眼差しを向けられて、私は奴らを斬ろうと刀を向けました。
きっと般若のような顔をしていたのでしょう、解体作業をしていた奴らは、私を見て凍り付きました。
その拮抗状態を破ったのは、黒い着流しを着た男でした。奴はいつの間に現れたのか、襖に寄りかかり、私に言いました。
父ちゃんを助けて欲しいのかい?
私は奴を睨みました。なんて馬鹿なことをいってるんだろうと思っても当然でしょう?けれど相手は続けます。
そこまでいったらそれ相応の施設がなければ生きられない。なぁ、嬢ちゃん。お前の父ちゃんを助けてやるよ。代わりにお前が俺たちのもとで働け。まあもちろん断ったら殺して終わりだ。
どうする?
聞く意味のない問でしょう。馬鹿でした。そのまま逆らって父と共に死ねばよかった。
私はそいつに連れて行かれました。目隠しをされ、猿轡をされ、後ろ手に縛られ、どこかに。
そのとき利用価値のなくなった父を、奴らはすでに殺していました。私が出たときにはすでにもう。
それから私は、三年間、何も知らないまま奴のもとで、奴隷のように暮らしていたんです。
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