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□三
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理解できませんでした。私はただ呆然と立っていたように思います。

奴は私の腕をつかんで、近づくなといわれていた地下へと引きずっていきました。私はろくな抵抗もできないまま、連れて行かれました。

そこで行われていたのは、去年君と万事屋が潰した煉獄関のような、殺し合いです。煉獄関とは違い、それには賭けなどありません。見ているものは、黒服の男と、見知らぬ男だけでした。

どんっと突き飛ばされた私に気付いたのは、闘っていた男たちでした。今思えば彼らは天人だったのでしょう、身の丈ニメートルはある大男たちです。

彼らはすぐに小さい私を共通の玩具と見なし、こちらに迫ってきました。私は理解できずに黒服の男を振り返り、奴にこういわれました。


殺せ。俺が憎いんだろ?俺はそいつらよりよっぽど強え。そいつらも倒せねえようなら死んで当然だ。俺を殺したければそいつらを斬れ。


怒りが頭を真っ白にしました。私は投げられた刀をとって、その天人たちを斬りました。斬って斬って、けれどわざと仕留めないだけの理性もありました。

それが終わったとき、立っているのは私だけでした。私は奴を睨み上げました。奴は愉しそうに笑って、その刀は預けといてやるよといいました。

それから、私はその地下に新たに部屋を与えられ、そこで寝食を行いました。日付感覚などいつからか失われ、何日も外を見ない日が続きました。

毎日生きていると実感するのは、斬り合ってギリギリのところで生き延びるそのときだけでした。染められているのがわかりました。汚染され、殺すことを迫られていることも。

私はけれど殺しませんでした。いつも最後の砦を守り切り、給仕がかりの女性から情報を聞き出して作戦を練りました。

思えばそのときに初めて女を抱いたんですね。最終的には彼女も斬りましたが。

もちろん殺し合いでしたから、幾度か致命的な怪我も負いました。相手に幾度も致命的な傷を負わせました。

そうしていくうちに、見えるようになったものがあります。


どこを斬れば確実に仕留められるのか。


それに気付いたとき、さすがに私も自分が嫌になりました。どんなに拒絶したところで、私の身体は斬り合いへとどんどん適していくのだから。

いつもいつも、仕留めずに終わらせていたある日、ついに決定的な情報を得ました。給仕がかりの女が地図を手に入れ、人数を把握することに成功したのです。私はようやく終止符を打てると気が付きました。

もとより軍人の父を持つ身。しかもこの斬り合いで戦闘能力は強引に叩きのばされ、ずっと抱いてきた怒りも未だ、胸の内に燻っていました。


そして、私は決行しました。

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