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□三
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「それは一月の雪の降る寒い夜のことだったと思います。芯から凍るような、真冬の寒さでした」

「手始めに私は給仕がかりの女を斬りました。あの男から預かっていた刀で、です。声を奪って殺しました。

私が寝食をしていた部屋は地下牢のようなところで、一度出て右手に曲がれば、一列ずっと斬り合った天人や人がいました。私は彼らも殺しました。同じように喉を裂いて」

「今思えば私は確かに人殺しに特化した天賦の才があったのでしょうね……」

「計画は速やかに進行しました。一人一人個室を分け与えられていたおかげです。組織の人間が異常に気付くまでに、私は地下にいた者を一人残らず斬りました」

「そして地表に上がり、あとは君も知っての通りです。私はあの組織を壊滅させたことになりました。あっけない終わりです。私一人の力で、すべて消し去られたっていうんですから」


ふう、と一息ついた。ずっと声を発し続けていたせいか、喉が少し熱を持ったように痛い。

小さな鏡台からは、俯いて話を聞いている沖田君の表情は窺い知れなかった。言葉もない、のだろう。

わがことながら呆れ返る。どこまでも愚かでなんの意味もない生活を過ごし、それを終えた結果、このざまだ。左腕の包帯を撫でてため息をこぼす。


昨日、動けなかった私の代わりに、奴を斬った土方君もその場に居合わせた山崎君も目を見開いていた。それもそうだろう、私は壊滅させた。少なくとも誰一人生かした覚えはなかったのだから。

山崎君も私の過去は知っている。私が隊士として入隊する前に、おそらく土方君が調べさせたはずだし、組織についても探り、結論は出ていたはずなのに。


『……――っ、悪ぃ、斬っちまった』


土方君がそういって私は死体になった相手を見た。覚えのない顔だった。


『……いえ、構いません。ありがとう。きっと彼は、あの黒服について情報を流しはしないでしょうし』

『俺が吐かせたとしても?』

『無理でしょうね。壊滅したはずの奴らが数人でも生きていたなら、私を狙うに違いありません。いずれまた、斬りに来るはずでしょう』


その前に、私はここを出払わなければいけない。


つきり、と胸が痛んだ。脳裏に思い浮かぶのは、血塗れの刀を携えた私を、泣きそうな顔で抱き締めた局長。呆然と私たちを見ていた土方君と沖田君。

あの、寒い雪の日。

苦しいほどの絶叫を上げて、泣いた日。

この暖かい彼らから、離れなければいけないのか。

一度自覚すれば簡単だ。離れたくない。この人たちと共にありたい。

でも、と脇に立て掛けてある刀を見る。あれがこの手にある限り、私はあの悪夢から逃れられない。

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