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□三
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「それ……、その男のもんなんですかィ?」
低く呻くような声に尋ねられ、私はふ、と笑った。何が可笑しいのかさっぱりわからなかったけれど、なぜかこぼれたのは笑いだった。
「ええ。といっても最初、男に預けられたものではありません。それはあの男に返しました。代わりにこれをもらったんです」
「まだ、続きがあるんだな?」
その口調に思わず苦笑をもらした。痛いくらいの視線を背中に感じつつ、浅い笑みを浮かべながら話す。
「地表に出て、私は幾人も幾人も斬っていきました。きっと身体の限界を超えていたのでしょうが、疲れはありませんでした」
「最後に着いた部屋には、あの男しかいませんでした。奴はこの刀を片手に持って、悠然と笑って私を待っていました」
「襖を開けた私に気付くと、奴はこの上なく愉しそうに笑いました。刀を返せといわれました。私は躊躇いました。ものがなくては斬れませんからね」
「お前にはこれをやるよ、奴はそういって持っていた刀を私に向けて放りました。それがこれです」
「私は刀を返しました。それから、どちらが先に動いたのか覚えていません。私たちは斬り結びました。あの男の左頬にある傷跡はその際できたものです」
「……でも、そいつは生きてたんだろィ」
「トランス状態だったのでしょうね。私はその戦いを終えたときの記憶がありません。今もそれは思い出せない」
死体を見た覚えはない。気付いたら場は血塗れで、その出血量を考えれば死んだとしか思えなかった。だから確認すらしないまま、私はその場を去ったのだ。
あとでその日を確認したら、私の誕生日だったというのだから笑える。丸々四年間、ありもしない幻想に踊らされていたとは。
長い、長い夢だったらよかったのに。
でも夢じゃなかったからこそ、私はこの場にいられる。こうして戦いの中に身を置くことで自身の価値を証明できた。それしか脳がない私だから。
いつまでもその刀を捨てられないのが、私の未練だというのなら。
私は、あの男に斬られて、死ぬべきなのかもしれない。
そのとき唐突に髪を掬われた。
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