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□四
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「ここ、か……」
スナックお登勢と書いてある看板の横の階段を前に、一人佇む。人通りの多い道で、車が背後を通る度に首筋をすり抜ける風に、背中がむずむずした。髪が短いのだから当然だ。
漆黒だったそれを、少しだけ染めて、今は穏やかなブラウンに落ち着いている。山崎君だけあって器用な出来だった。
本当なら遊女共に匿ってもらえばいいのだが、話を全部聞いた土方君に拒否された。確かに彼女たちを巻き込むのは忍びない。
といいつつ、すでにふた月も匿ってもらっているのだが。
「でもだからといって、神楽たちを巻き込むのもどうかとは思うんだけど……」
代わりに紹介されたのが万事屋だ。何に巻き込まれてもあいつらなら構わねえなどと、苦虫を噛み潰したような顔でいっていたが、はてさて。彼がそれほど信用するなら、きっと大丈夫なのだろう。どうせ他に頼るつてもない。
かよさえ今も懇意にできるなら最高だが、奴は彼女と私の関係などとっくに承知しているだろう。なら今かよの元に向かうのは得策ではない。
浅いため息を吐いて階段を上る。昼のその通りは人が多い。今済ませてしまうほうが賢明だ。
チャイムを鳴らすが誰も出てこない。まだ寝ているのだろうか。一応もう一度鳴らす。
と、かったるそうかつ眠たい声と共に、死んだ魚の目をした銀髪天パの男が出てきた。急いで出てきたのだろうか、着物があべこべ、右が前になっている。
「はいはい今出ますぅ……って、どちらさん?」
「私は真選組三番隊隊長斎藤壱と申します。副長土方の勧めでこちらに依頼をしにきました」
「土方……土方なんて知り合いいたっけな、ってああ多串君か。ん、え、多串君が俺たちんとこ勧めてきたの?」
「ええ」
苦虫を噛み潰したような顔をしてはいたが。
うなずけば彼はにやぁあと楽しそうに笑い、家の中に向けて叫んだ。
「おーい新八赤飯炊いてー」
「何いってるんですかお米もないのに!っていうかお客さんでしょうがその人ォオ!!何つっ立たせてるんですか!!!あ、どうぞ入ってください汚いけど」
部屋の中から出てきた眼鏡君が、局長と山崎君がいっていた万事屋唯一の常識人か。確かに素直そうな子だ。
にこやかにありがとうといって入ろうとすれば、突然視界を遮るものが現れる。
その腕を伸ばした人を見上げれば、視線が合致した。
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