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「反抗期の子供持つと辛いわー」
「坂田さんの兄弟、ではありませんよね?」
「どう見ても違うでしょ」
坂田さんの運転するスクーターに、二人乗りして家のある場所まで向かう。本来なら取り締まる立場だが、まぁこれくらいならいいだろう。基本的に交通面の規制には関わらないからわからない。
「なんかたまたま知り合って懐かれただけだ。馬鹿食いする子いるしご飯大変だしで困る困る」
「夜兎を懐かせるのは難しいでしょうに。新八君だってしっかりしてそうですし」
「神楽がバラしたの、それ?」
舌を噛みそうになりながら会話をする。坂田さんの背中にひっついているだけでも一苦労だ。
声音がわずかに変わったことに気付かぬふりをして応えた。
「推測で尋ねたら当たってました。神楽はいい子ですね、女の子らしくて」
「あれがあっ!?」
「ええ、十分女の子らしいと思いますよ。大人になったらきっと綺麗になるでしょうね。楽しみです」
「じじくせえ、いや、ばばくせえ、か?」
ふざけた問いかけに見えぬとわかっていながら肩をすくめる。ああまではっきりバレたのは初めてだった。
「どちらでも構いませんよ。私はどちらに見えます?」
「今の状態なら間違いなく女だね。いい女。家なんか見に行かないで、ホテルでもいっちゃう?」
身体が密着しているからだろうこその言葉に苦笑する。よく新八君は悪影響を受けずに育ったな。
ひっつく力は強めずに、肩越しの耳に囁いてやる。
「この身体では君をろくに満足させることもできませんよ。遠慮させていただきます」
「……なぁいじめ?銀さんちょっとムラムラッてきたよ?」
「お可哀相に」
さくっと切り捨てて答えればはぁ、とため息が後ろまで聞こえてきた。くすくすと笑って耳元から顔を遠ざける。
「あ、あれあれ」
片手を放して坂田さんが指差したのは、長屋だった。一室の前に一人、女性が立っている。坂田さんに気が付くと彼女はぺこりとお辞儀をした。
上品そうに見える淡い桃色の衣に、優しい蜂蜜色の髪が映える。私と目が合うと彼女は柔らかく笑った。
「いい女だよなー」
「ええ、美しい。裏の人間じゃないなら愛でたんですが」
「……あんたってレズ?」
「安心してください、神楽にはまだ手を出しませんから」
「まだって何イィィッ!?」
冗談ですよ、と笑いながらスクーターを降りる。長屋の隣にそれを置いて坂田さんと戻れば、彼女はこちらを振り向いてやはり笑った。
「はじめまして、八代誉と申します。あなたが斎藤さんですか?」
「ええ。君のように綺麗な方がお相手で光栄です」
「どこのホストだよ……」
くすくすと笑う彼女と呆れた様子の坂田さんに、軽く肩をすくめることで応えておく。
「んじゃ部屋見るか」
促されて三人で部屋に向かう。途中の部屋から漏れる声の数々に、相当変人が集まっているだろうことが伺えた。大丈夫かな。
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