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□四
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突き当たりの西日のあたる部屋だった。引き戸をあければほどよく狭い。


「斎藤さんはこちらで斬ったはったをするつもりはないでしょう?」

「ええ、さすがに。君には危害を加えません。危険と察したらすぐに去ってくださいね」

「そう。なら前払いでお願いできますね?」

「もちろん。夜は仕事に出ます。君は好きにお過ごしください」

「……安易に私どもを信用なさらないほうがいいですよ」


にこりと微笑んで彼女の頬をす、と撫でる。一瞬目を見開いたのは、演技だろう。彼女の片手はすでに暗器を隠している箇所へ伸びていた。それを知りながら艶然と笑う。


「無論。これはただの商売です。私も君も不利になるようなことは起こりません」

「……そういうことに、しておきましょう、旦那様?」


ふわりと悪戯気に笑う彼女の頬から手を離す。随分と愛らしい人物だ、これからの生活に心踊る。

娼館は確かに身を隠すには相応しい。だがしかし、心踊るようなことは何もない。そういう、いわば私の闘争心をくすぐるのは、こちらの世界なのだ。

夜の世界。夜が匂い立つところ。


振り返れば黙っていた坂田さんが眠そうに大あくびをしているところだった。目が合うとがしがしその髪をかき、首をかしげる。


「んで、このツーセットでいいの?」

「人を単品扱いするのもどうかと思いますが……。助かります。概算でこのくらいで結構でしょうか?」


携帯に数字を打ち込んで坂田さんに見せる。彼はじっとそれを見た後促すように誉を見た。

彼女には見せる数字を変える。本来ならこんな高額を別々に払うことなど不可能なのだが、今回は少し毛色が違う。あそこで働いているのも合わさって多少なら無理が効くようになっていた。

こくりと頷いたのを確認し、手筈を軽く整える。


「では明日の早朝までに振り込んでおきます。ご確認ください。もしも契約期間を越えるようならまた別途料金を払うので構いませんか?」

「はいはい」

「ええ、結構です。今晩から?」

「そうしてくださると助かります。今日中に私も荷物を整えておきますから。夕飯は一緒に食べましょう」


柔らかに笑いかければ彼女はわずかに笑んで頷いた。ついで坂田さんを見ればえ、と不思議そうな顔をする。


「よかったら同伴してください。もちろん神楽と新八君も。君は彼らを知っていますか?」


誉に問えばその笑みが深まった。彼女ともまたなにがしか起きているのだろう。二人の性格をよく知っていると見える。

二人で坂田さんを見れば、彼はばりばりと頭を掻いてにやにやと笑った。ただし目だけは死んでいる。


「じゃあ新婚さん宅にお邪魔しちゃうわー」

「仲人役ですか?銀時さんには似合いませんね」

「知ってますぅ」

「それでは七時くらいにこの家に。誉さん、荷物が多いようなら迎えに行くけれど、どうしますか?」

「いえ、大丈夫です。ありがとう、あなた」

「坂田さんも、ありがとうございました」


二人揃っていかにもそれっぽく礼をする。反応を伺えばわずかに厄介そうに目を細めていただけだった。


「んじゃ、鍵これな。八代は送らなくていいんだよな?」

「ええ。そのお気持ちだけありがとうございます」

「よしじゃあ砂糖君行こうか」


促されて頷く。微笑む彼女を振り返り、慣れた仕草で誉の髪をさらりと撫でた。女らしい柔らかな髪質に、最近ろくに遊女たちと戯れていないことを思い出す。つまらないものだ。


「それじゃあ、後で」


一瞬目を見開いた誉はすぐにもう一度笑みを浮かべて、幸福そうに頷いた。

その姿がどうしてか、かよと重なる。
傷つけた愛しい女人。

坂田さんと連れ立って長屋を出る。秋らしい高い空の中、自身のブラウンの髪が風に撫でられた。切ない終わりの滲む空気。


また、椿の花を、見れればいいと思った。

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