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□四
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その晩軽い宴会騒ぎになりながら、万事屋のメンバーと誉と楽しく語らう。ようやくそれから抜け出した頃には、深夜を越えていたのだから呆れてしまう。

それから深夜近くになると娼館へ向かい、山崎君と連絡を取り合いながらバイトに精を出し、朝方に長屋に戻る生活が続いた。

すでに誉はお隣さんたちと交流を深めており、ご近所さんたちは皆私を熟知するようになっていた。


曰く、姉女房のために献身的に働く夫。

彼女が作り上げてくれたそのキャラクターに合うように、それらしく振る舞うのはかなり興味深い。時折二人で出掛ければ、長屋の住人たちが冷やかすほど親しくなっていた。

二人で出掛けるといっても、近場の商店街を歩いたり公園まで散歩したりするだけだ。日曜には少し遠い隣町に出掛けたりするものの、やはり何をするでもなく平和に時を過ごす。

満ち足りた、穏やかな日々だった。
誉とはたくさん言葉を交わした。他愛ない会話を重ねるだけなのに、それは偽りとは思えないほど深かった。八代誉という人間は、どんな生き物なのか、どんなものを愛し、どんなものを憎むのか。

作り上げられた偽物でも、そこに込められたのは彼女の思いだ。それをひどく愛しく思う。


裏社会の人間であろうとも、そこにいるのは八代誉という斎藤壱の妻。衣を変えるように色を変えることのできる人間。

唇を重ねることさえなかったが、夫婦らしいスキンシップはそれなりに行っていた。拒否することのない彼女に感謝しながら、静かに手を繋ぐ。決まって誉は驚いたように私を見、それからほんのりと笑みを浮かべた。

幸せで、穏やかな毎日だった。


そんなある日、定期的な山崎君の連絡により、情報が入った。それを聞いた私は思わずお猪口を取り落とす。酒が零れようが気にならなかった。


「今、なんていいました?」

「あの男が、動きました。監察方や三番隊の目を逃れ、どこかに姿をくらましたようです」


酒が入っているとは思えないほど、しっかりした目付きだった。唇を噛み締めそうになるのを必死に堪えながら、代わりに浅いため息を漏らす。


「やってくれましたね……あの夜兎の男」


土方君によって任せられていた別件のほうだ。永倉君にそろそろバトンタッチしようかというこのタイミングで、まさかの目標の消失。厄介極まりない。


「すみません、やっぱり他に任せるべきじゃなかったですね……」


わずか沈む彼に首を振る。正直情けないのは部下たちだ。成長しない奴らの顔を思い浮かべて苛立ちが募る。鍛え直すでは足りない、しばき倒す。


「いえ、君は忙しいでしょう。問題なのはあの馬鹿共ですね。早急に戻ってしばき倒してやりたいところなんですがね……」

「あ、それは、あの、代わりに沖田隊長が……」

「沖田君が?」


こくこく頷く山崎君のわずかに怯えた様子に、しばき倒している彼の姿が思い浮かんだ。

……さぞや心地よく乱闘していることだろう。不思議なことに部下たちは沖田君が嫌いらしい。親しく会話しているところなど見たことない。

頭痛の種が増えたな、と嘆息する。山崎君はお気の毒です、といって話を変えた。


「そういえば明後日、副長がまた顔を見に来るといってましたよ。少しそれで休んでください」

「逆に叱られそうですが……。でも、ありがとう山崎君」


あれから早くも一ヶ月経っている。時間が流れるのは早い。

けれど私は、一向に進まない物事に、焦りを隠せないのだ。

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