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いつもより遅い時間に娼館につけば、二人のかむろに急かされて、衣服を取り替えていく。すでに土方君と山崎君は来ているらしい。しかしどうでもいいが毎日毎日三着を着替えるというのも飽きるものだ。いつも通り着流しを着たい。

ぼうっとしているのに気が付いたのか、二人のかむろは着付けを進めながら口を尖らせた。


「壱様遅いと困ります」

「私たち心配しました」

「待たせてごめん。いつもありがとう」


苦笑を漏らして応えると二人はますますつん、とすまし顔になる。


「そうやって甘やかすのも嫌です」

「壱様は私たちに優しすぎます」


どうやら照れ隠しのようらしい。笑みを深めながら笑い、二人の小さな頭に唇を落とした。かあ、と頬を赤く染める初々しさに癒されながら、言葉を紡ぐ。


「私が君たちに世話になっているのは事実だよ。だから私は君たちに感謝している。その気持ちは受け取ってもらえないのかな、宮、紅?」


二人はしばらく黙って互いの顔を見合わせたあと、首をふるふると横に振った。そして私の両手を掴んで、歩きだす。機嫌を直してくれたようだ。


「そういえば壱様」

「今日はいつもの方と、副長様と」

「別にお一人いらっしゃるようです」

「二人のあとでお待ちしていると」


他に?誰だろう。思い当たる人間はいない。

しかし彼女たちや女将が、真選組以外の人間を私と引き合わせるはずがないのだ。そこまで心配することはないだろう。


「ああ、ありがとう」


そのときふと視線を感じて振り返る。横の廊下に誰かが抜けていくような気がした。それも、よく知る誰かが。


「壱様?」

「おさぼりはダメですよ?」

「……悪い、今戻るよ」


まさか、いやいやそれはあり得ない。
気のせいだろう。そもそも彼は土方君や山崎君、局長が言わなければ私の居場所すら知らないのだから。

二人のかむろに促されて座敷へと入室する。そこにいるのは、土方君と山崎君。

すでに遊女たちは去っており、山崎君は酔い潰れていた。相変わらず弱い。


「こんばんは、土方君」

「おう。こいつはできあがってるから放っとけ」


くい、と山崎君を顎で指して呆れたようにいう。私も思わず苦笑した。報告はすべて土方君任せか。存外いい度胸をしているものだ。


「彼が普通の隊士でないのは当然なのかもしれませんね」


これだけ酔っていようとも、絶対に情報は漏らさないだろうことは想像に容易い。彼が監察方である立派な証拠だ。

山崎君から目を放し、土方君に先ほどのことを伝えようとして、土方君が私の後ろを見ていることに気が付いた。


「おい、かむろ共」

「「は、はいっ!!」」

「土方君、私のかむろを苛めないでください。怯えているでしょう」


苦笑しながらいうが、かむろ二人は赤面している。怯えている、というより噂の殿方にときめいているだけだろう。

しかし土方君ははぁ?と呆れたようにいって、二人に下がるよう促した。


「下がってろ。てめえらがもう少し大人になったら相手してやる」

「「……!!はいっ!!」」


とたとた下がるのを見守ったあと、彼を冷ややかに眺めれば面倒だろ、とあっさりいった。むかつく野郎になったものだ。

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