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□四
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「―――っ!!放せっ!!」

「嫌ですねィ」

「……――っ」


聞き慣れた彼の声に、違う恐怖を覚える。乱暴に髪を結わいていた簪が外され、かつらを引き剥がされた。


「いっ――痛いですよ!!やめてください沖田君、ハゲたらどうしてくれるんですか!!」


頭皮が引きつれる嫌な音がした。顔を歪めながら訴えつつ、相手を見て気付く。そうか、彼が私の髪を見たのはあれ以来なのか。

ひどく、ショックを受けている顔だった。今にも泣きだしそうな、悲しそうな顔。

ぎゅうっと子供が縋りつくようにして抱き締められ、それを拒否することはできなかった。傷つけたのは、紛れもなく私だから。


「本当に……、切っちまったんですねィ……」


零れた吐息混じりの言葉が耳にかかる。さらに背が伸びたのか、少しだけそれは遠かった。

応えることもできないまま、沖田君越しに部屋の中を見回す。私の部屋の隣だった。敷かれてある布団と、衝立てが、どういう意図でここにあるかなど特筆せずともわかるだろう。灯りはすでに消えており、かむろたちも側にはいない。


逃げられる、だろうか。


考えるのは向き合うことでなく、逃げること。彼と向き合うことは、まだできない。今抱えてる案件をおわらせなければ、到底できる気がしないのだ。

向き合うべきことでは、ないのかもしれないけど。


「なんで、俺には居場所を知らせなかったんでィ」

「……聞かなくともわかっているくせに。君は過保護ですから」


遊女の格好。

改めて自分が女なのだと認識させられる、嫌な格好。でもここにいる分には、これほどいい隠れ蓑はないだろう。事実誰にも気付かれたことはない。

はたから見れば、こうやってただ抱き締めあってるだけでも、十分遊女との恋に見えることだろう。ならそれでも構わない。本気でさえないならば。

いつからこんなことになってしまったのだろう。私たちは姉弟のようなものだったのに。それ以外でもそれ以下でも、ましてやそれ以上でもなかったはずなのに。


馬鹿な、話。

本当に馬鹿な話だ。

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