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あまりにも無防備に眠りこける斎藤の髪を、そっと撫でた。前よりも格段に短くなってしまったそれは、心なしか色も淡いブラウンに染まっている。
別人のようなのに、こうやって見せる無防備過ぎる姿は変わらなかった。
白くて傷痕だらけの肌に、そっと唇を寄せる。彼女自身じゃ決して気が付かないようなところに、点々と赤い花を咲かせていく。ただ愛しさのままに、優しく、強く。
「俺が、てめえの裸体見ただけで、諦めるとでも思ってるんですかィ」
起こさないように、そっと耳元に囁いた。これで夢見が悪くなるならそれでもいい。むしろこんなに俺を焦らして、あまつさえとんだお預けを食らっているんだ、悪夢ぐらい甘んじて受けてもらいたい。
最後に呟いたその呼び方は、なんだ。
本当に諦めさせるつもりなら、今まで通り沖田君といえばいい。なのに、どうして。
幼少期の頃の、あの愛しい呼び方を。
あんなに切なそうに呼んだんだよ。
「……諦めるわけ、ねえだろィ」
最後に一つ、咲かせた場所は。
白い、うなじ。
てめえは目を覚ましていつも通り生きればいい。夜が来て、俺が思い知らせるまでは。
知らねえふりして生きてろ。
赤い花を知るのは、俺と、夜だけ。
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