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□四
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大丈夫じゃありません。

俺、山崎退は死にそうになっていた。それもこれも話を聞かないで髪を切って、屯所を出た斎藤さんがいけないんだ。

ちなみに二ヶ月過ぎた今まで、沖田隊長は文字通り斎藤さんを捜し回っていて、副長の部屋に今さっき沖田さんが乱入し、それから五分経った今聞こえるのはものすごいバズーカ連射の音だけ。

痴話喧嘩でもなんでもやってろよとは思うけど、この件で沖田隊長がキレるのは違うと思う。斎藤さんがああいう風に動いたのは、屯所に被害を与えないためだし、女だってバレないようにだし。


でもまぁ、沖田隊長の気持ちはわからないでもない。

俺だって一応隊士だし、それ以前に男だ。大事な人が勝手に決断して、これみよがしに髪を置いていくなんて、いらん不安を抱くのも当然だろう。


「斎藤さん、死ぬ気なのかな……」


彼女は自己犠牲に関して、ひどく嫌悪していたことを思い出す。そんな人が自ら死地に赴くとも思えない。

でもことは過去の話だ。あの人の過去を聞いた身としては、むしろ自己犠牲を望みそうだと考えてしまう。俺ですらそうなんだから、敏感な沖田隊長だって気付かないわけがないだろう。


それをわかっていて、あの行動?娼館で働くのも情報を得るには手っ取り早いというのはわかるが、毎度そこに始末書や報告書なんかを届けにいかなきゃいけない俺はどうすればいいんだ、くそったれ。

大抵俺が斎藤さんのところに向かうのは深夜で、すぐに彼女の使う部屋へと放り投げられる。運がいいと斎藤さんのあの姿と一杯の酒を奢ってもらえるのは最高だ。沖田隊長にバレたら確実に抹殺されるわけでもある。

机の上の資料を手にとって、斎藤さんの始末書をいつ副長に提出するか悩む。二人の乱闘は終了したらしいが、今は話し込んでいるのか騒音は消えていた。

副長は沖田隊長に斎藤さんの居場所を知らせていないらしい。毎日殴りかかる斬り掛かるの応酬が繰り返されていた。それもひと月が過ぎた頃から減った。諦めたわけではなく、自分で捜し回っているみたいだ。

仕事はほぼ部下に任しているみたいだが、有能な隊士が多い一番隊だけはある。沖田隊長の仕事を任されてももはや諦めきったように淡々とこなしていた。


話が終わったのか、襖が鋭く閉まる音がして、廊下を覗けば沖田隊長が部屋から出てきた。苛立ちのこもった表情だ。

……今日確か副長と局長が斎藤さんの様子見を兼ねて、娼館行くっていってたような……。

バラしちゃったのかな……。

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